2分で読める生成AIのいま VOL.78 歴史から見たAI ① ― オランダ黄金時代に映る、テクノロジー革命の「いつか来た道」

AIを理解するのに、AIだけを見ていては足りないのかもしれません。新シリーズ「○○から見たAI」第1回は「歴史」。17世紀オランダの大航海時代――世界初の株式会社、世界初のバブル、そして光学技術を取り込んだ画家フェルメール。400年前の"フロンティア"に、いまのAIと驚くほど重なる構図が見えてきます。

(※2026年10月時点の情報です。)

今回も医療田さんと機械屋さんの会話でどうぞ。

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医療田:

ねえ機械屋さん、聞いてよ。

この前の休みにアムステルダムに行ってきたんだけどさ。

機械屋:

おお、オランダですか。いいですね。

医療田:

うん。で、海洋博物館っていうのがあって。

Het Scheepvaartmuseum、っていうの。

そこにね、VOC――東インド会社の船のレプリカがあったり、航海用の計器がずらーっと並んでて。

機械屋:

ほう、それは面白そうですね。

医療田:

うん。でね、それ見てたらさ、

なんか、、いまのAIと重なるものを感じたんだよね。

航海技術が世界を変えた時代と、AIが世界を変えようとしてる今と。

機械屋:

、、。

実は、それ、とても鋭い直感だと思います。

今日はその話をしませんか。

「歴史から見たAI」。大航海時代を補助線に、いまのAI革命を読み解いてみましょう。

医療田:

おー、いいね。やろうやろう。

● 大航海時代の「フロンティア技術」

機械屋:

まず、17世紀のオランダにとっての「フロンティア技術」は何だったかというと、

航海術です。

海図、コンパス、アストロラーベ、六分儀。

これらを使いこなせるかどうかで、国の命運が決まった。

医療田:

博物館にもあったよ、それ。

人工の星空の下に航海計器がずらっと並んでて、

船乗りたちがどうやって星を頼りに航路を見つけたか、っていう展示。

機械屋:

まさにそれです。

で、ここがポイントなんですが、

その航海技術は、単に「海を渡る道具」ではなかったんです。

それを手にした国が、貿易を支配し、富を集中させ、世界の覇権を握った。

医療田:

「それを手にした国が、世界の覇権を」、か。

つまり、その時の航海技術って、

機械屋:

そうです。

「それを持っているかどうかで、社会全体の構造が変わる技術」という意味で、

まさに当時のフロンティア技術でした。

その意味では現在のAIが持つ意味と、とても重なりますよね。

● 世界初の「株式会社」が教えてくれること

機械屋:

そして、その航海技術を「事業化」するために生まれたのが、

VOC――オランダ東インド会社です。

1602年設立。世界初の株式公開企業であり、世界初の多国籍企業でもあります。

医療田:

あ、それも博物館で見た。

アムステルダム証券取引所の話とか。

市民がお金を出し合って、船を出して、利益を分け合うっていう。

機械屋:

はい。

VOCは政府から21年間の貿易独占権を与えられていました。

自前の軍隊を持ち、条約を結ぶ権限すらあった。

国家のバックアップを受けた巨大企業が、フロンティア技術を独占的に運用していたわけです。

医療田:

、、なんか聞いたことある構図だね。

政府が後押しして、巨大企業がフロンティア技術を握る、って。

機械屋:

ええ。

現在のAI開発において、OpenAI、Google、Anthropic、Metaといった企業が、

膨大な計算資源と資金を投じてフロンティアモデルを開発し、

各国政府がAI戦略や規制枠組みでそれを後押し、あるいは制御しようとしている構図は、

VOCの時代とよく似ています。

医療田:

で、VOCはどうなったの?

機械屋:

1799年に解散しました。

200年近い歴史の中で、汚職、過剰拡大、現地での搾取。。

巨大すぎる権力は、やがて内部から腐敗していった。

医療田:

、、それも、なんか、教訓的だね。。

● チューリップ・バブルとAIバブル

機械屋:

もうひとつ、オランダ黄金時代を語るうえで外せないのが、

1637年の「チューリップ・バブル」です。

歴史上最初の投機バブルと言われています。

医療田:

ああ、知ってる。チューリップの球根が家一軒分の値段になったっていう話でしょ。

機械屋:

そうです。

もともとチューリップはオスマン帝国から入ってきた珍しい花で、

珍しい模様の球根ほど高値がつきました。

やがて先物取引まで行われるようになり、

1637年2月、ハールレムのオークションで買い手がつかなかった瞬間に、価格が一気に崩壊した。

医療田:

そうなんだ。

たしか20数年前、2000年前後のインターネット普及期にも、バブルとその崩壊があったんでしょ?

機械屋:

よくご存じで。そうですね、ITバブルとか、

その当時の会社によく使われていたためか「.com(ドットコム)バブル」と呼ばれています。

医療田:

んんー。

機械屋:

ここで面白い視点があります。

経済学者のカルロタ・ペレスは、技術革命には共通のパターンがあると指摘しています。

「導入期」と「展開期」の2つのフェーズがあって、

その間に必ず「バブルとその崩壊」が挟まる、と。

医療田:

ふんふん。

機械屋:

導入期には、新技術の可能性に興奮した金融資本が殺到して、バブルが生まれる。

そしてバブルが弾けた後、ようやく技術が社会に本当に根づいていく「展開期」に入る。

鉄道もそうでした。インターネットもそうでした。

医療田:

じゃあ、、

バブルって、実は「必要な通過点」だっていうことかな。

たしか、Amazonの創業者のジェフ・ベゾスさんも、同じようなこと言ってなかったっけ?

機械屋:

ええ。2025年10月、イタリアのテックイベントで、ベゾスはAIについて

「これは金融バブルではなく、産業バブルだ」と述べています。

金融バブルは破裂すれば何も残らないが、

産業バブルは「埃が収まったとき、社会は発明の恩恵を受ける」と。

ペレスの言葉を借りれば、バブルの時期に過剰に投資されたインフラが、

崩壊後に「社会全体の土台」として活きてくる。

ドットコムバブルで敷かれた光ファイバー網が、

その後のYouTubeやNetflixを可能にしたように。

医療田:

なるほどー。。

チューリップ・バブルの後も、オランダの金融システムや貿易網は残ったもんね。

機械屋:

おっしゃる通りです。

バブルは消えても、技術と制度は残る。

これは、今後のAIの発展を考えるうえでも、大事な視点かもしれません。

● フェルメールとカメラ・オブスクラ

医療田:

あ、あとね、国立美術館――ライクスミュージアムにも行ったんだけど。

フェルメールの絵があってさ。

機械屋:

ああ、フェルメール。「真珠の耳飾りの少女」で有名な画家ですね。

医療田:

そうそう。

でさ、フェルメールって「カメラ・オブスクラ」を使ってたんじゃないかって言われてるでしょ。

暗い部屋にレンズで光を通して、壁に映った像をなぞって描く、っていう。

機械屋:

ええ。

フェルメールの絵には、カメラ・オブスクラ特有の光学的な特徴が見られます。

前景がぼやけて見える「被写界深度」の効果や、

光の粒がキラキラ散る「ポワンティエ」と呼ばれる技法。

ピンホールの痕跡がキャンバスに残っている作品もあるそうです。

医療田:

ふんふん。

機械屋:

さらに面白いのが、

フェルメールの隣人がアントニ・ファン・レーウェンフック――顕微鏡の発明で知られる科学者だったんです。

優れたレンズを製作できる人物が、すぐそばにいた。

医療田:

へー。

じゃあフェルメールって、その時代の最先端テクノロジーにアクセスできる環境にいたんだ。

機械屋:

そうです。

そして、ここが今のAIと重なるところなんですが。

フェルメールがカメラ・オブスクラを使っていたとして、それは「ズル」だったのか?

医療田:

、、そりゃ違うよね。

だってカメラ・オブスクラだけじゃ、あの光の表現は描けないもん。

道具を使いこなすのも、才能のうちでしょ。

機械屋:

そうです。

道具が変わっても、最終的に問われるのは「何を表現するか」「何を創り出すか」。

これは、いま生成AIを使って文章を書いたり、画像を作ったりする人たちが、

まさに直面している問いそのものですよね。

医療田:

400年前から同じ議論してるんだ、、人間って。。笑

機械屋:

ははは。。そうかもしれません。

● まとめ ―― 「いつか来た道」を知ること

機械屋:

今回のポイントを整理しましょうか。

・航海技術は17世紀の「フロンティア技術」だった。それを持つ者が世界の構造を変えた。いまのAIと同じ構図である。

・VOCは世界初の株式会社であり、国家のバックアップを受けた巨大企業がフロンティア技術を独占した。現在のAI企業と政府の関係に通じる。

・チューリップ・バブルは歴史上初の投機バブルだが、バブル崩壊後も技術と制度は社会に残った。カルロタ・ペレスの技術革命サイクル理論は、AI投資ブームにも当てはまる。

・フェルメールはカメラ・オブスクラという最先端技術を取り込んで、あの光の表現を生み出した。道具を使うことは「ズル」ではなく、新しい表現の可能性を開くこと。

医療田:

なんかさ、

歴史って、「同じことを繰り返してる」とよく言うけど。

こうして並べてみると、本当にそうだね。

機械屋:

ええ。

テクノロジーが社会を揺るがすとき、人間は必ず戸惑い、バブルに踊り、そして適応していく。

400年前も、いまも、その構造は変わらない。

医療田:

でもさ、

「いつか来た道」だって知ってるのと知らないのとでは、

歩き方が変わるよね。

機械屋:

、、その通りですね。

歴史を知ることは、未来への不安を「既視感」に変えることかもしれません。

「ああ、これは前にもあったことなんだ」と思えるだけで、

少し冷静に、少し前向きに、次の一歩を踏み出せる。

医療田:

うん。

アムステルダムに行ってよかったな、、。

機械屋:

次回は「歴史から見たAI」の続きか、

それとも別の切り口でいきましょうか。

「○○から見たAI」、このシリーズはまだまだ広がりそうですね。

医療田:

楽しみ。

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● よくある質問(FAQ)

Q. オランダ東インド会社(VOC)とは何ですか?

A. 1602年に設立された世界初の株式公開企業です。オランダ政府から21年間の貿易独占権を付与され、自前の軍隊や条約締結権まで持つ、国家的規模の多国籍企業でした。アジアとの香辛料貿易を支配し、200年近く存続しましたが、1799年に解散しています。

Q. チューリップ・バブルとAIバブルは本当に比較できるのですか?

A. 投機の心理構造には共通点があります。新しいもの(チューリップの珍しい品種 / AI技術の可能性)に対する過剰な期待が価格を押し上げ、ある瞬間に崩壊するという流れです。ただし重要なのは、バブル崩壊後も「技術そのもの」と「それが生み出した制度やインフラ」は社会に残るという点です。経済学者カルロタ・ペレスの技術革命サイクル理論でも、バブルは技術が社会に定着するための「通過点」として位置づけられています。

Q. フェルメールはカメラ・オブスクラを本当に使っていたのですか?

A. 確定的な文献証拠はありません。しかし、彼の絵画には被写界深度の効果やポワンティエ(光の散乱を再現した点描)など、カメラ・オブスクラ特有の光学現象が見られます。キャンバスにピンホールの跡が残っている作品もあり、また隣人がレンズ製作に長けた科学者レーウェンフックだったことから、使用していた可能性は高いと考えられています。

Q. 「○○から見たAI」シリーズは何回続くのですか?

A. 歴史、地政学、哲学、芸術、心理学など、さまざまな分野からAIを読み解くシリーズとして構想しています。不定期に掲載予定です。

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● 参考

Carlota Perez "Technological Revolutions and Financial Capital"

https://en.wikipedia.org/wiki/Technological_Revolutions_and_Financial_Capital

VOC: The First Publicly Traded Security & The Rise of Global Markets

https://medium.com/@brucefenton/voc-the-first-publicly-traded-security-the-rise-of-global-markets-ec000af6a36e

The Dutch East India Company: The World's First Megacorporation (1602-1799) — Market Histories

https://www.markethistories.com/en/the-dutch-east-india-company-the-worlds-first-megacorporation-1602-1799

Tulip Mania — Wikipedia

https://en.wikipedia.org/wiki/Tulip_mania

Vermeer and the Camera Obscura — Essential Vermeer

https://www.essentialvermeer.com/camera_obscura/co_one.html

Did Johannes Vermeer use a camera obscura or not? — Vermeer Delft

https://www.vermeerdelft.nl/en/blogs/did-johannes-vermeer-use-a-camera-obscura-or-not

Het Scheepvaartmuseum — The National Maritime Museum

https://www.iamsterdam.com/en/whats-on/calendar/museums-and-galleries/museums/the-national-maritime-museum

Jeff Bezos says AI is in an industrial bubble but society will get 'gigantic' benefits from the tech — CNBC

https://www.cnbc.com/2025/10/03/jeff-bezos-ai-in-an-industrial-bubble-but-society-to-benefit.html

From Tulip Mania to the AI & Crypto Bubble — Henrik Zeberg

https://henrikzeberg.substack.com/p/from-tulip-mania-to-the-ai-and-crypto

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●2分で読める「生成AIのいま」シリーズ。バックナンバーはブログからどうぞ!

https://www.youichimachida-ai.com/blog

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町田洋一(医師・医学博士・経営管理学博士)

Youichi MACHIDA, MD, PhD, DBA

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