2分で読める生成AIのいま VOL.79 材料から見たAI ②-1 ― シリコンから電力まで、AIを動かす「物質」の世界

新シリーズ「○○から見たAI」、第2回のテーマは「材料」です。前回(第1回)は「歴史」から見ましたが、今回は視点をがらっと変えて、AIを足元で支える"物質"を見ていきます。砂から精製されるシリコン、希少な鉱物資源、そして膨大な電力と水――。

(※2026年10月時点の情報です。)

今回も医療田さんと機械屋さんの会話でどうぞ。

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機械屋:

前回は「歴史から見たAI」でしたが、

今回は視点をがらっと変えて、「材料から見たAI」でいきましょう。

医療田:

材料?

AIってソフトウェアでしょ? 材料って何の話?

機械屋:

ええ、AIはソフトウェアです。

でも、そのソフトウェアを動かすには、ハードウェアが要ります。

そしてハードウェアは、物質でできている。

医療田:

まあ、、そりゃそうだよね。

機械屋:

今日は、AIを支えている「物質」の話をしましょう。

材料、コスト、エネルギー。

この視点で見ると、AIがまったく違った姿に見えてきます。

● AIの「原材料」―― 砂から始まる旅

機械屋:

まず、AIチップの主原料は何だと思いますか?

医療田:

えっと、、シリコン?

機械屋:

正解です。

ケイ砂――つまり砂ですね――を精製して、純度99.999999999%のシリコンを作ります。

小数点以下に9が11個並ぶので「イレブンナイン」と呼ばれています。

医療田:

イレブンナイン。。

砂から、そこまで純度を上げるの?

機械屋:

はい。

この超高純度シリコンを薄く切った「ウェハー」の上に、

ナノメートル単位の回路を刻んでいくのが半導体製造です。

でも、シリコンだけではチップは作れません。

製造工程では、ネオジウムやセリウムといったレアアース(希土類元素)が使われますし、

高周波デバイスにはガリウムやゲルマニウムといった化合物半導体材料も不可欠です。

医療田:

ガリウム、、って、ガリウムシンチに使うガリウムと同じ?

機械屋:

元素としては同じです。

病院では放射性同位体として画像診断に、半導体では化合物材料として、まったく別の使われ方ですが。

医療田:

へー。

なんか不思議。病院で使ってる元素と、AIの材料が重なってるんだ。

機械屋:

そうなんです。

そして、これらの材料のサプライチェーンには、大きな偏りがあります。

レアアースの精製・加工は中国に集中しており、

ガリウムやゲルマニウムも中国が世界の供給の大部分を握っています。

医療田:

、、それって、ちょっと怖い話だね。

ひとつの国に握られてるっていうのは。

機械屋:

ええ。この話は「地政学から見たAI」に直結するテーマなので、

次回以降、改めて深掘りしましょう。

● なぜ「GPU」なのか ―― 並列処理という発想

医療田:

ねえ機械屋さん、前から気になってたんだけど。

AIの話になると必ず「GPU」って出てくるでしょ。

あれ、もともとゲームの部品だったんだよね?

なんでAIに使われてるの?

機械屋:

とてもいい質問です。

まず、普通のCPU――パソコンの「頭脳」ですね――は、

少数の高性能なコアで、いろんな種類の計算を順番にこなすのが得意です。

いわば、「一人の優秀な職人が何でもやる」タイプ。

医療田:

ふんふん。

機械屋:

一方、GPUは「大量の単純作業を一斉に処理する」設計になっています。

数千個の小さなコアが、同じ計算を同時にこなす。

いわば、「何千人ものアルバイトが一斉にシール貼りをする」タイプ。

医療田:

笑

わかりやすいけど、なんかすごい例え。

機械屋:

で、AIの学習って、実は「行列の掛け算」の繰り返しなんです。

巨大な数値の表を、何億回も掛け合わせていく。

これは、まさに「同じ計算を大量に並列でやる」作業なので、GPUの設計と完璧に合う。

医療田:

あー、なるほど。

もともとゲームの3D描画用に作られた仕組みが、

たまたまAIの計算にもぴったりだったっていうことかな。

機械屋:

そうです。

そして、そのGPUの市場をほぼ独占しているのがNVIDIAです。

現在の主力チップ「Blackwell B200」は、

前世代の「H100」に比べて学習速度が約2.5倍、

1ドルあたりの学習性能も約2倍に向上しています。

医療田:

でもお高いんでしょう?

機械屋:

w。。通信販売みたいですね。

いや、まさに。1個あたり3万ドルから5万ドル、日本円で450万円から750万円程度です。

医療田:

、、CT装置を買うよりは安いけど、、

それを何千個も並べるんでしょ?

機械屋:

はい。

大規模な学習には数万個のGPUが必要になることもあります。

医療田:

うっく。

● 2つの「価格カーブ」―― 作るのは高く、使うのは安く

機械屋:

ここで、AIのコストについて面白い現象を紹介します。

「学習コスト」と「推論コスト」で、価格が真逆の方向に動いているんです。

医療田:

真逆?

機械屋:

はい。

まず「学習コスト」。AIモデルを一から作るのにかかるお金です。

GPT-3は2020年で約460万ドル。

GPT-4は2023年で約7,800万ドル。

GPT-5は2025年で15億ドル以上と言われています。

医療田:

460万ドルから15億ドル。。

6年で300倍以上?

機械屋:

そうです。フロンティアモデルの学習コストは、指数関数的に上がっています。

2027年には1モデルあたり10億から30億ドル規模になるとも予測されています。

医療田:

もう国家予算じゃん。。

機械屋:

一方で、「推論コスト」――つまり、できあがったAIを「使う」コストは、

劇的に下がっています。

2023年3月、GPT-4のAPIは100万トークンあたり30ドルでした。

2026年4月、同等性能のモデルが100万トークンあたり0.1ドルです。

医療田:

30ドルから0.1ドル。。

99.7%下がってるってこと?

機械屋:

そうです。3年で約300分の1。

年率にすると、毎年10分の1のペースで安くなっている計算です。

医療田:

、、これって、すごいことだよね。

AIを「作れる」のは一握りの巨大企業だけだけど、

AIを「使う」のは、どんどん誰でもできるようになっていく。

機械屋:

おっしゃる通りです。

このコスト構造の非対称性こそが、いまのAI産業の構造を決定づけています。

● 電力と水 ―― 「見えない材料」の話

機械屋:

最後にもうひとつ、忘れてはいけない「材料」があります。

電力と、水です。

医療田:

水?

機械屋:

はい。GPUは大量の熱を出します。

データセンターの冷却には膨大な水が使われており、

2023年時点で、アメリカのデータセンターだけで年間170億ガロン――約640億リットルの水を消費しています。

医療田:

、、そんなに。

機械屋:

電力も深刻です。

IEA(国際エネルギー機関)の報告では、

データセンターの電力消費は2025年に前年比17%増加しました。

アメリカだけでデータセンターの電力容量は2024年の33ギガワットから、

2030年には120ギガワットへ、約3.6倍になると予測されています。

医療田:

120ギガワット。。

原発何基分?

機械屋:

標準的な原発1基が約1ギガワットですから、120基分相当ですね。

実際、データセンター事業者と小型モジュール炉(SMR)の契約パイプラインは、

2024年末の25ギガワットから、2026年には45ギガワットに拡大しています。

医療田:

AIのために原発を建てる時代。。

なんか、、すごいことになってるんだね。

機械屋:

ええ。

AIは「ソフトウェア」ですが、

その裏には、砂、鉱物、シリコン、電力、水という、

きわめて物質的な基盤がある。

クラウドの「雲」の向こう側には、確かに「地面」があるんです。

医療田:

「クラウドの向こう側に、地面がある」。。

いい言い方だね。

● まとめ

機械屋:

今回のポイントを整理しましょうか。

・AIチップの主原料はシリコン(イレブンナイン純度のケイ素)。製造にはレアアースやガリウムなどの希少材料も不可欠で、サプライチェーンは中国に集中している。

・GPUがAIに使われるのは、AIの学習(行列の掛け算の繰り返し)と、GPUの並列処理アーキテクチャが完璧に適合するため。NVIDIAのBlackwell B200は前世代比で1ドルあたりの学習性能が約2倍に向上している。

・AIの「学習コスト」は指数関数的に上昇(GPT-3の460万ドル→GPT-5の15億ドル超)している一方、「推論コスト」は3年で99.7%下落。AIを「作る」のは一握りの巨大企業だけだが、「使う」コストは急速に民主化している。

・データセンターの電力消費は急増しており、2030年には米国だけで原発120基分相当が必要とされる。冷却用の水消費も年間640億リットル規模。AIの「見えない材料」としてのエネルギー問題は深刻化している。

医療田:

今日の話、知らないことばっかりだった。

砂からAIが生まれてるって、考えたこともなかったよ。

機械屋:

AIの話をすると、どうしてもソフトウェアの話になりがちですが、

「材料」という視点で見ると、

これは製造業の話であり、資源の話であり、エネルギーの話でもある。

医療田:

でもさ、今日の話って、AIの「体」の話だよね。

GPUとかシリコンとか電力とか。

でも最近よく聞く「エージェントAI」って、

体だけじゃ動かないんじゃない?

機械屋:

、、鋭いですね。

おっしゃる通りで、エージェントAIには「体」以外にも必要な「材料」がたくさんあります。

ツール連携、メモリ、プランニング機構。。

いわば、AIの「神経系」や「道具箱」にあたるパーツですね。

医療田:

それ、次回やろうよ。

「材料から見たAI」のパート2として。

機械屋:

いいですね。

では次回は「エージェントAIに必要な材料」――

ハードウェアのさらに上のレイヤーにある「部品」の話をしましょう。

そしてその先には、「地政学から見たAI」も控えています。

この材料がどこにあるか、誰が握っているかが、

世界のパワーバランスを左右しているという話です。

医療田:

楽しみ、、

いや、怖いけど楽しみ。

機械屋:

ははは。。

「怖いけど楽しみ」、それがAIを学ぶ正しい態度かもしれませんね。

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● よくある質問(FAQ)

Q. なぜAIの学習にはGPUが使われるのですか?CPUではだめなのですか?

A. AIの学習は「行列の掛け算」を大量に繰り返す処理です。CPUは少数の高性能コアで多様な処理を順番にこなすのが得意ですが、GPUは数千個の小さなコアで同じ計算を一斉に実行する「並列処理」に特化しています。AIの学習はまさにこの並列処理と相性が良いため、GPUが圧倒的に効率的です。近年はTPU(Googleの専用チップ)やNPU(推論特化チップ)など、AI専用設計のプロセッサも登場しています。

Q. AIの学習コストが上がっているのに、利用料金が下がっているのはなぜですか?

A. 学習コスト(モデルを一から作る費用)と推論コスト(完成したモデルを使う費用)は別物です。学習は一度きりの大規模投資ですが、推論は完成したモデルを多数のユーザーで共有するため、ハードウェアの進化、ソフトウェアの最適化、競争による価格低下の恩恵を直接受けます。結果として、モデルの開発費は上がっても、利用者にとっての1回あたりの利用コストは急速に下がっています。

Q. データセンターの電力・水消費は今後どうなるのですか?

A. IEA(国際エネルギー機関)の報告では、データセンターの電力消費は2030年までに現在の2倍になると予測されています。冷却用の水消費も増加が見込まれ、環境負荷は大きな課題です。対策として、小型モジュール炉(SMR)による原子力発電、液浸冷却技術、再生可能エネルギーの活用などが進められています。

Q. レアアースのサプライチェーンが中国に集中しているのはどの程度深刻ですか?

A. レアアースの採掘だけでなく、精製・加工のほとんどが中国に依存しています。中国は過去にガリウムやゲルマニウムの輸出規制を実施しており、半導体製造への影響が懸念されています。この問題は「地政学から見たAI」(次回予定)で詳しく取り上げます。

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● 参考

NVIDIA Blackwell Enables 3x Faster Training — NVIDIA Technical Blog

https://developer.nvidia.com/blog/nvidia-blackwell-enables-3x-faster-training-and-nearly-2x-training-performance-per-dollar-than-previous-gen-architecture/

AI Training Costs 2026: GPT-5.6, Claude Fable 5, Gemini — Capital and Compute

https://capitalandcompute.net/blog/what-it-costs-to-train-ai-models-2026/

AI Price Index: LLM Costs Dropped 300x (2023-2026) — TokenCost

https://tokencost.app/blog/ai-price-index

HBM Supply Crisis 2026: The Bottleneck Redefining AI — EnkiAI

https://enkiai.com/data-center/hbm-supply-crisis-2026-the-bottleneck-redefining-ai/

Data centre electricity use surged in 2025 — IEA

https://www.iea.int/news/data-centre-electricity-use-surged-in-2025-even-with-tightening-bottlenecks-driving-a-scramble-for-solutions

生成AIの発展に伴う米国の重要鉱物戦略の動向 — JETRO

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2026/729269e9b406c29c.html

How Much Does LLM Training Cost? — Galileo

https://galileo.ai/blog/llm-model-training-cost

Imec's 2026 roadmap details 0.3nm nodes by 2038 — Tom's Hardware

https://www.tomshardware.com/tech-industry/semiconductors/imecs-2026-roadmap-details-0-3nm-nodes-by-2038-cfet-transistors-become-viable-at-0-7nm-company-redefines-moores-law-as-cell-sizes-gain-importance-for-density

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●2分で読める「生成AIのいま」シリーズ。バックナンバーはブログからどうぞ!

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町田洋一(医師・医学博士・経営管理学博士)

Youichi MACHIDA, MD, PhD, DBA

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