2分で読める「生成AIのいま」Vol.21 - 「人間には簡単、でもAIには難しい?」Moravecのパラドックス、について

- 生成AIについてやさしく学べるブログシリーズ。

今回は「人間には簡単、でもAIには難しい?」

Moravecのパラドックス、について紹介します。

今後のAIの進化と発展、我々の生活や仕事観への変化を考えるうえで、大変参考になる考え方です。

読みやすくまとめましたので、ぜひご一読ください。

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機械屋:

医療田さん、こんにちは。

医療田:

あ、機械屋さん、こんにちは。今日も暑い中ご苦労様です。

機械屋:

ほんと、暑いですよね。

医療田:

あつい、といえばだけどさ、とうとうGPT-5が出たねえ。

機械屋:

そうですね。旧式のGPT4oとの違いなどから、いまのところ評価はまちまちですが、その評価に対する開発元OpenAIの対応も含めて、注目の出来事ですね。

医療田:

GPT-5の実力のほどはいろんな人がおいおい検証していくのだろうけど。。

こんなにAIの進歩が速いと、どんどん世の中が変わっていきそうで不安を感じちゃうよ。

機械屋:

そうですね。

これからのAIを考えるうえでちょっと興味深い話題を一つ。

今日は"Moravecのパラドックス"というテーマをお話しできればと思います。

医療田:

え?なになに?

モラベック?

機械屋:

アメリカの機械工学者、未来学者、トランスヒューマニストのハンス・モラベックらが1980年代に提唱した概念です。

医療田:

トランスヒューマニスト。。?

機械屋:

ああ、えっとですね。

新しい科学技術を用い、人間の身体と認知能力を進化させ、人間の状況を前例の無い形で向上させようとする考えをトランスヒューマニズムというそうですが。

医療田:

へえ、そうなんだ。なんだっけ、イーロン・マスクさんが頭の中にAI埋め込んだりとかそんな感じのことかしらね。

あ、話の腰折っちゃってごめんね、そのモラベック先生が提唱した概念が、"Moravecのパラドックス"なのね。

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1.「微積分」と「猫の認識」、難しいのはどっち?

機械屋:

その通りです。

医療田さん、ここで一つ質問なんですが

・関数の微分積分 

・写真の猫を四角で囲う

この2つのうち、どっちのほうが難易度が高いと思います?

医療田:

えっ? そりゃ当然、微分積分じゃない?

わたし高校では積分の応用問題とか、苦労したよ。

でもって、猫を四角で囲うくらい、小学生の子でも簡単にできちゃうだろうし。。

機械屋:

そうですよね。

でもこれって、私たち人間にとってだけでなく、AIにとっても同じだと思います?

医療田:

???

機械屋:

実はこれ、AIにとっては逆になるんです。

AIにとって関数の微分積分はわけのないこと、一方で猫を四角で囲う、いわゆる境界を引く作業で"バウンディング"といいますが、

このバウンディングのほうが、AIにとってははるかに難しい作業なんですよ。

医療田:

は?そうなの?

機械屋:

ほかにも、

10桁x10桁の掛け算とか、指数関数の計算とか、人間がやろうとすると一苦労ですが、機械であれば、それこそ1個1,000円の関数電卓でもわけのないことですよね。

一方で、〇×を書いたり、公園を走り回ったり、ということは、それこそ小学生未満の子でも、できてしまいますが、機械にとっては指数関数の計算よりもはるかに難易度が高いことなんです。

医療田:

そうなんだ。

あ、でもそうか。道のゴミを拾うロボット、いてくれたらありがたいけど。。

機械屋:

まだ街角で見かけませんよね?指数関数は市販の電卓で簡単に計算できるのに、です。

医療田:

たしかに。。

だけどそれってどうしてなんだろう?

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2. キーワードは「生命の進化」と「感覚」・「運動」

機械屋:

提唱者のモラベック先生はこのように考察されています:

人間の脳の感覚と運動に関する部分は、自然界で10億年間経験し生き残ってきたことで高度に進化してきた。

我々が推論と呼ぶ意識的プロセスは、より古く強力な通常は意識されない感覚運動的知識によって支持されなければ意味がない薄いベニヤ板のようなものだと私は信じている。感覚と運動の領域では我々はみな並外れたオリンピック選手であり、難しいことも簡単にこなすことができる。

しかし抽象的思考は新たな技であり、おそらくここ10万年で発展してきたものである。

我々はそれをまだマスターしていない。それは本質的には難しいことでは全くない。単に我々がそれをしようとするときに難しく思えるだけである。

医療田:

えっと、、

機械屋:

分かりやすく言い換えるとですね、、

・猫を認識するとか講演を走り回ったり、という、一見子供でもできてしまう作業というのは、実は生命誕生以来の10億年という、莫大な期間をかけてわれわれ生命が磨いてきた、進化のたまものであり、これをまねすることは難しい。

・一方で、抽象的な思考というのは、たとえそれが難解なものであれ、せいぜい最近の10万年程度の進化によるもの(類人猿とホモサピエンス程度の違い)だろう。

猫を猫を認識するのが簡単に思えるのは、我々人間であればだれでも可能だからそう勘違いするだけであって、これをコンピュータにさせようと思うと、とてつもなく大変な、偉大な作業なのだ

ということです。

医療田:

へえーっ

機械屋:

そこでお医者さんの医療田さんに伺いたいのですが、この「猫の識別」とか「歩き回る」とかそういったことって、広い概念で言うとなんと言いますでしょうか?

医療田:

えっと、猫の識別、なら視覚、つまり「感覚」とか、歩き回るなら、、「運動」?

機械屋:

ありがとうございます!

そうなんです、この「感覚」とか「運動」というのは、生命が10億年かけて進化させてきた高度な能力です。

一方、抽象的思考はせいぜい10万年ほどの歴史しかなく、実は本質的には難しいものではない。

私たちが難しく感じるのは、単に抽象施行が我々にとって新しく、慣れていないだけなんです。

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※参考文献
1. Ege Erdil (2024), "Moravec’s paradox and its implications". Published online at epoch.ai. 'https://epoch.ai/gradient-updates/movarec-s-paradox' [online resource]
2. Wikipedia "モラベックのパラドックス" 'https://en.wiktionary.org/wiki/Moravec%27s_paradox' [online resource]

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