2分で読める生成AIのいま Vol.15 - 2016年の"警鐘"以来、画像診断医は不要になったか? -

以前より、非定期で「2分で読める生成AIのいま」という連載ブログ形式で
生成AIに関する情報や私の意見を発信してきました。

AIになじみのない方々にも興味を持ってもらうため、
普段は"医療従事者(医療田恵)とエンジニア(機械屋ヒロト)という架空人物の会話形式”
でお届けしているのですが、
今回は私にとって思い入れのある話題なので、私自身の言葉で伝えたいと思います。

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5月14日、ニューヨーク・タイムズに「Your A.I. Radiologist Will Not Be With You Soon(私たちのAI放射線医はすぐにはやって来ない)」という記事が掲載されました。
https://www.nytimes.com/2025/05/14/technology/ai-jobs-radiologists-mayo-clinic.html

当初「AIが放射線診断を奪う」とまで言われた予想が、
実際には放射線科医の仕事を奪うどころか、
むしろ効率や精度を飛躍的に高める味方となっていることが紹介されています。

この背景には、2016年にジェフリー・ヒントン氏が
「今すぐ放射線科医の育成をやめるべきだ。5年以内にAIが人間を超えるのは明らかだ」
と語った衝撃の言葉があります。
正直、あの言葉は呪いのように私の脳裏にこびりついていましたし、
同業にも少なからぬ危機感を与えたはずです。

しかしながら、氏の予測に反し
、米国では放射線科医師の需要と不足は今のところ深刻化しているようです。
最近の報告では、放射線科医の労働力は、2055年に向かって増加するだろうという予測が報告されています( J Am Coll Radiol. 2025; doi:10.1016/j.jacr.2024.10.019 )。

たしかに、Deep Neural NetworkのおかげでAIの画像"解析"能力は革命的に進化し、
一部の領域で人間を凌駕しました。
とはいえ、我々画像診断医の役割は単に「画像解析」にとどまるほど狭小ではない。
今のところ、AIは我々の仕事を奪うのではなく、
効率性を高め、人間の能力を拡張する強力な医療ツールであることが証明されている現状です。

このニューヨークタイムズの記事でも
> AIが仕事を奪うという予測は往々にして『人間が実際に行っている仕事の複雑さを過小評価している。放射線科医がスキャンの読影以外にも多くのことを行っているのと同じだ』とマサチューセッツ工科大学の労働経済学者デビッド・オーター氏は述べた。
とありました。

もっとも、今後の生成AIによる医療業界への破壊的改革と
それによっておこる需要・供給バランスの変化はまだまだ予測困難でしょう。(よろしければ、関連記事もお読みください: 2分で読める「生成AIのいま」 Vol.14 -生成AIのもたらす驚異的な近未来予測レポート"AI 2027"の概説- https://www.youichimachida-ai.com/blog/2aivol14-aiai-2027- )

同記事では、2016年の“警鐘”を契機に
組織的にチーム戦略を見直したメイヨー・クリニックの事例も紹介されていました。
現在、同院放射線科にはAI科学者、放射線科研究者、データアナリスト、
ソフトウェアエンジニアなど40名からなるAIチームがおり、
組織分析装置から疾患予測装置まで、様々なAIツールを開発。
スタッフは55%増加し、放射線科医は400人以上に増加したとのこと。。。さすがメイヨ―・クリニック。
いつか見学してみたいものです。

私自身は、チーム再編に取り組む課題こそ残るものの、
ヒントン氏の“警鐘”により放射線科医として、
そして一人の職業人としての進むべき道を深く考えさせられ、
ここまで必死にもがいてきました。

今の自分があるのは、結果的に氏のあの"警鐘"のおかげであり、心から感謝しています。

※”2分で読める生成AIのいま”シリーズ。もしご興味を持ってくださいましたら、当Webサイトにて、ぜひバックナンバーもお読みください!
https://www.youichimachida-ai.com/blog

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