2分で読める生成AIのいま Vol.64 - 病院の宝は、鍵のかけ方を変えれば使える ― 医療デジタルデータAI利活用ガイドライン①

3省2ガイドラインで「守り」を固めたら、次は「攻め」。

病院に眠る診療データをAI開発に活かすための法的な道筋を、厚生労働省が初めてガイドラインにまとめました。

医療田さんと機械屋さんの会話でどうぞ。

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● 守りから攻めへ ― セキュリティの「次」

機械屋:

3省2ガイドラインのシリーズ、全4回おつかれさまでした。

医療田:

おつかれさまでした 笑

正直、チェックリストまでやりきった時は「もうお腹いっぱい」って思ったけど。

機械屋:

ですよね。

でも実は、あのシリーズは全部「守り」の話だったんです。

医療田:

守り?

機械屋:

はい。情報を「漏らさない」「壊さない」「止めない」。

これがセキュリティ、つまり守りです。

今回からは、いわば、「攻め」の話に入ります。

「攻め」のガイドライン、「医療デジタルデータAI利活用ガイドライン」、行きましょう。

医療田:

。。うっく。

機械屋:

ああ、、ダイジョブですか?

医療田:

うん。まあ、、

またガイドラインか。。

まあ、でも、たぶん大事なだろうなあ。

機械屋:

そうです、ここは、医療田さん、頑張りましょう。

思い出してください。病院には、守るだけではもったいないものがありますよね?

医療田:

、、あっ。

診療データ、のこと?

機械屋:

そうです。

カルテ、検査結果、医用画像、遺伝子情報。

日々の診療で蓄積される膨大なデータは、AI開発にとって宝の山なんです。

医療田:

たしかにね。。

「うちのデータ、AIの研究に活かせたらいいのに」って話は、学会でもよく出るよ。

でも、「じゃあどうぞ」とは言えない空気があるんだよね、いつも。

機械屋:

「使いたいけど、法律的に大丈夫なのかわからない」。

これが長年の課題でした。

で、その課題にようやく正面から答えを出したのが、今回のテーマです。

医療田:

おお!答え、出たんだ。

機械屋:

2024年3月に作成され、同年9月30日に厚生労働省から通知されました。

国立がん研究センターの浜本隆二先生を中心とする研究班がまとめたものです。

医療田:

正式名称は、、さっき言ってた長いやつ?

機械屋:

「医療デジタルデータのAI研究開発等への利活用に係るガイドライン」、ですね 笑

以下、「データ利活用GL」と呼ぶことにしましょう。

医療田:

助かる。よろしく。

● 要配慮個人情報という壁 ― なぜ使いたくても使えなかったのか

機械屋:

さて、なぜ病院のデータは使いにくかったのか。

キーワードは「要配慮個人情報」です。

医療田:

ようはいりょ、、こじんじょうほう?

機械屋:

個人情報保護法に出てくる用語で、「取り扱いに特に配慮が必要な個人情報」のことです。

病歴、身体障害、健康診断の結果 ―― つまり医療データのほとんどが、これに当たります。

医療田:

ほとんど。。

それは厳しいね。具体的に何が困るの?

機械屋:

普通の個人情報であれば、利用目的を変更したいとき、ある程度の柔軟性があるんです。

でも要配慮個人情報は、まず取得するとき本人の同意が必要で、利用目的の変更にも強い制約がかかる。

医療田:

ということは、、

「診療のために集めたデータを、あとからAI開発にも使おう」と思ったら、患者さん一人ひとりに同意を取り直さないといけない?

機械屋:

原則はそうなります。

でも考えてみてください。

過去10年分のCT画像、何万人分ものデータに対して、一人ひとり連絡を取って同意を得る。

転院した方もいれば、亡くなった方もいる。

医療田:

、、現実的に無理だよね、それ。

機械屋:

そうなんです。

だから多くの場面で「使いたいけど使えない」まま、データが眠っていた。

この壁を合法的に越えるための道筋を示したのが、今回のデータ利活用GLです。

● 3つの利活用パターン ― 目的で変わる法的ルート

機械屋:

データ利活用GLでは、利活用を大きく3つのパターンに分けています。

非常にわかりやすい整理なので、ここはぜひ押さえてほしいポイントです。

医療田:

3つ?

機械屋:

はい。

パターン①は「学術研究のみ」。

大学や研究機関が、論文を書いたり学術研究を進めたりするためにデータを使うケースです。

医療田:

ふんふん。これは昔からあるよね。

IRB(倫理審査委員会)を通して、、とか。

機械屋:

そうですね。

学術研究については個人情報保護法に例外規定がありますので、比較的ハードルが低い。

学術研究機関が学術目的で利用する場合は、本人同意なしで利用できるケースがあります。

医療田:

なるほど。じゃあ②は?

機械屋:

パターン②は「学術研究と製品開発の併存」。

たとえば大学病院が研究しつつ、企業と一緒にAI医療機器も開発する、というケース。

学術研究の側面と製品開発の側面が共存しています。

医療田:

あー、、最近よくあるやつだ。

産学連携というか。

機械屋:

まさにそうです。

この②は、学術研究の側面がある分、法的な整理がやや複雑ですが、一定の道筋はあります。

そしてパターン③が「製品開発のみ」。

企業が、医療データを使ってAI搭載の医療機器やソフトウェアを開発するケースです。

医療田:

③が一番ハードルが高そうだね。。

機械屋:

おっしゃる通りです。

学術研究の例外規定が使えないので、法的に一番難しい。

でも社会的には一番需要がある。

ガイドラインも、この③を最も手厚く議論しています。

医療田:

なるほどね。。

じゃあ、③の場合、どうやって壁を越えるの?

● 仮名加工情報という鍵 ― 鍵のかけ方を変える

機械屋:

ここで登場するのが「仮名加工情報」です。

医療田:

かめい、、かこう、、じょうほう?

機械屋:

「仮の名前に加工した情報」と書きます。

個人情報から、氏名や住所など、その人を直接特定できる部分を削除・置換したものです。

2022年の個人情報保護法改正で導入された、比較的新しい概念ですね。

医療田:

ん?

それって「匿名加工情報」とは違うの?

前に聞いたことある気がする。

機械屋:

いい質問ですね。

匿名加工情報は、元の個人を「復元できないように」加工したもの。不可逆です。

一方、仮名加工情報は「直接は特定できないけれど、元のデータと照合すれば特定できる余地が残っている」もの。

医療田:

、、ちょっと待って。

それって中途半端じゃない?

匿名のほうがしっかりしてて安全な気がするけど。

機械屋:

実はそこがポイントなんです。

匿名加工情報は、復元できないくらいまで加工するので、データの粒度がどうしても荒くなる。

AI開発に必要な「精密なデータ」とは相性が悪いんですよ。

医療田:

あー、、

たとえば、CT画像のデータから年齢も性別も病歴も全部消しちゃったら、

何の画像なのかわからなくなるもんね。。

機械屋:

まさにそうです。

仮名加工情報なら、氏名や住所は削除するけれど、年齢・性別・診断名といった「AI開発に必要な情報」は残せる。

医療田さん、症例報告を書くとき、どうしていますか?

医療田:

あっ。

そうか。。

症例報告って、患者さんの名前は伏せるけど、年齢とか性別、検査結果、画像所見は残すよね。

あれと同じ発想?

機械屋:

近いイメージです。

症例報告では「70代男性」と書いて個人を直接特定できないようにするけれど、臨床的に意味のある情報はすべて残す。

仮名加工情報も、同じように「特定につながる部分だけ外して、中身の価値は保つ」という考え方です。

医療田:

なるほどー、、

それなら腑に落ちる。

で、仮名加工情報にすると、何が変わるの?

機械屋:

最大のポイントは、「利用目的の変更が、本人の同意なしでできる」という点です。

医療田:

えっ。

さっき「同意を取り直さないといけない」って話だったのに?

機械屋:

はい。ここが仮名加工情報の最大のメリットです。

もとの個人情報のままだと、目的を変えるには同意が必要。

でも仮名加工情報に変換すれば、法律上、利用目的の変更が認められている。

記事タイトルの「鍵のかけ方を変えれば使える」は、まさにこのことです。

医療田:

つまり。。

「診療目的で集めたデータ」を仮名加工情報に変換すれば、「AI開発目的」に使い道を変えられる、と。

機械屋:

その通りです。

ただし、重要なルールがあります。

仮名加工情報は「内部利用限定」が原則。第三者に提供することは原則禁止されています。

医療田:

、、あれ?

病院の中だけで使うならいいけど、企業と一緒に開発するパターン③はどうするの?

機械屋:

鋭いですね。

そこで出てくるのが「共同利用」という仕組みです。

● 共同利用と転々流通の禁止 ― データの旅路にはルールがある

機械屋:

個人情報保護法には「共同利用」という制度があります。

あらかじめ共同利用するメンバーの範囲や利用目的を公表しておけば、その範囲内でのデータ共有は「第三者提供には当たらない」とされているんです。

医療田:

ふんふん。

つまり、、

病院と企業が「共同利用」の関係を組めば、仮名加工情報を共有できる?

機械屋:

そうです。

仮名加工情報は第三者提供が禁止されている。

でも共同利用は法律上「第三者提供ではない」。

だから、共同利用の要件を満たせば、病院から企業へデータを渡すことが法的に可能になる。

これがこのガイドラインの中核的なロジックです。

医療田:

法律をうまく組み合わせてるんだね、、

ちょっとパズルみたい。

機械屋:

ははは。法律パズルですね。

ただし、大切な制約があります。

「転々流通の禁止」です。

医療田:

てんてん、りゅうつう?

機械屋:

たとえば、A病院がB企業にデータを共同利用で渡した。

B企業がそのデータをさらにC企業に渡す ―― これは認められません。

医療田:

あ、、「又貸し禁止」ってことだ。

機械屋:

いい例えですね 笑

しかも、共同利用の枠組みの中に、元のデータを持っている医療機関が常に入っていなければならない。

A病院がB企業とC企業の両方と共同利用するのはOKですが、A病院が抜けてB→Cだけでデータが流れるのはNGです。

医療田:

原本を持ってる人が、ずっと輪の中にいないといけないのか。

機械屋:

はい。患者さんのデータがどこで、誰に、何の目的で使われているか。

それを元の医療機関が常に把握できる状態にしておく必要がある、ということです。

医療田:

うん。。それは納得できるな。

自分が患者だったら、知らないところで知らない会社がデータを転がしてたら嫌だもんね。

● まとめ ― 守りと攻め、両輪で

機械屋:

では、今回のポイントを整理しましょう。

・3省2ガイドライン(Vol.59〜63)は「守り」=セキュリティ。今回からは「攻め」=データ利活用

・医療データは「要配慮個人情報」に該当し、利用目的の変更には本人同意が原則必要

・利活用の3パターン:①学術研究のみ、②学術研究+製品開発、③製品開発のみ。③が最も法的に難しく、社会的需要も大きい

・仮名加工情報にすれば、本人同意なしで利用目的を変更できる(=「鍵のかけ方を変える」)

・病院→企業のデータ共有は「共同利用」の枠組みで合法的に可能

・ただし転々流通(又貸し)は禁止。元の医療機関が常に管理の輪にいること

医療田:

守りを固めて、攻めの道を開く。

サッカーでいうと、守備を整えてからカウンターアタック、みたいな。

機械屋:

なかなかいいたとえですね。

医療田:

了解。

今回は法律の話が多かったけど、、

症例報告のたとえで、仮名加工情報がすとんと腑に落ちたよ。

機械屋:

よかったです。

法律は難しく見えますが、「何のために」「誰が」「どんなルールで」という視点で見ると、ちゃんと筋が通っていることが多いですよね。

医療田:

うん。

鍵をかけっぱなしで放置するんじゃなくて、かけ方を工夫すれば宝は使える。

そう思えたのが、今回の収穫かな。

機械屋:

それと、一つ予告なんですが。

実は2026年4月、個人情報保護法の改正案が閣議決定されました。

AI開発目的での個人情報利用について、同意を不要とする方向の改正です。

医療田:

えっ。

それって、、今回の話の大前提が変わるってこと?

機械屋:

そうなる可能性があります。

次回Vol.65では、この改正法案の中身と、今回のガイドラインとの関係を整理してみましょう。

「鍵のかけ方を変える」どころか、「鍵の仕組みそのものが作り直される」かもしれない、という話です。

医療田:

、、なるほど。

法律って、動くんだねえ。。

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● よくある質問(FAQ)

Q. 仮名加工情報と匿名加工情報の違いは何ですか?

A. 仮名加工情報は、氏名などの直接特定情報を削除・置換しますが、元データと照合すれば個人特定の余地が残ります。匿名加工情報は復元不可能なレベルまで加工します。AI開発では精密なデータが必要なため、仮名加工情報のほうが実用的です。

Q. 仮名加工情報にすれば、患者の同意なしにAI開発に使えるのですか?

A. 利用目的の変更については本人同意は不要です。ただし仮名加工情報の作成・取り扱いには、法律に基づく厳格な安全管理措置が求められます。また共同利用で外部と共有する場合は、共同利用に関する事項の公表等の手続きが必要です。

Q. 共同利用と第三者提供はどう違いますか?

A. 第三者提供は「相手にデータを渡す」行為で、原則として本人同意が必要です。共同利用は、あらかじめ利用者の範囲や目的を公表した上でデータを共有する仕組みで、法律上は「第三者提供に該当しない」と位置づけられています。

Q. 転々流通の禁止とは何ですか?

A. 共同利用で受け取ったデータを、さらに別の組織に渡すことの禁止です。元のデータを持つ医療機関が常に共同利用の枠組みに含まれていなければなりません。データの出所と管理責任が追えなくなることを防ぐルールです。

Q. このガイドラインはいつから有効ですか?

A. 2024年3月に作成、2024年9月30日に厚生労働省から通知されました。2024年12月23日には補足的な留意事項も通知されています。法律の解釈を整理したガイドラインのため、通知時点から有効です。

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●参考

・厚生労働省「医療デジタルデータのAI研究開発等への利活用に係るガイドライン」(2024年3月作成、2024年9月30日通知)

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001307082.pdf

・厚生労働省「医療デジタルデータのAI研究開発等への利活用に係るガイドラインに関する留意点について」(2024年12月23日通知)

・日本医療機器産業連合会(JFMDA)「医療デジタルデータのAI研究開発等への利活用に係るガイドライン 企業向けガイダンス」(2024年12月25日)

・個人情報保護委員会「仮名加工情報・匿名加工情報 信頼ある個人情報の利活用に向けて」

●関連記事

・Vol.63 チェックリストが病院を救う ― 3省2ガイドライン徹底解説④(最終回)

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・Vol.60 「鍵のかかっていない金庫」で医療をしていませんか ― 3省2ガイドライン徹底解説①

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・Vol.58 「うちのAIは医療機器じゃないので」が通じなくなる日 ― AISIヘルスケアAI安全評価ガイドを読む

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・Vol.57 米国医師の過半数が使う医療AI「OpenEvidence」― 利用そのものが「データ資産」になる時代

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