2分で読める生成AIのいま Vol.57米国医師の過半数が使う医療AI「OpenEvidence」― 利用そのものが「データ資産」になる時代
― 利用そのものが「データ資産」になる時代―
本来なら一つひとつ確認しなければたどり着けない医療情報 ― たとえばNEJMの最新論文やNCCNのガイドライン ― を、AIとの対話で引き出せる。
そんなサービスを、いま米国の医師の過半数が日常的に使っています。
その名は「OpenEvidence」。単なる便利ツールにとどまらない、「利用そのものがデータ資産になる」という新しい発想を持つ医療AIプラットフォームです。
【この記事のポイント】
・OpenEvidenceはGPTモデルを基盤にした医師専用の医療AI。米国医師の過半数が利用し、月間約3,000万件の臨床相談が行われている
・回答はすべてピアレビュー論文・ガイドラインに基づき引用付きで検証可能(「壁に囲まれた庭」設計)
・学会へのフィードバックループにより、利用データが医学のエビデンス改善に還元される新モデル
・2026年1月にシリーズDで2.5億ドル調達、評価額120億ドル(約1.8兆円)
今回も医療田さんと機械屋さんの会話でどうぞ。
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● OpenEvidenceとは何か ― 「1日100万件」の衝撃
機械屋:
医療田さん、今回はアメリカの医療AI事情で、ちょっと興味深い話をお持ちしました。
医療田:
お。なになに。
機械屋:
OpenEvidence、という医療AIプラットフォームをご存知ですか?
医療田:
名前は聞いたことある気がする、、
ChatGPTの医療版みたいなやつ?
機械屋:
方向性としてはそうですが、かなり性質が違います。
GPTモデルを基盤にしているのは同じですが、OpenEvidenceはNPI ― アメリカの医師識別番号 ― で本人確認した認証済みの医師・医療従事者を主な対象としています。
一般の方も1日2回までは利用できますが、全機能が解放されるのはNPI認証後です。
しかも、認証済みの医師には完全無料なんです。
医療田:
無料なの。。? それはすごいね。
で、データソースは?
機械屋:
ここも大きな特徴です。
OpenEvidenceはNEJM、JAMA(11専門誌含む)、NCCN、Cochrane、ASCOといった主要な出版社・学会と正式にライセンス契約を結んでいます。
これらのピアレビュー文献やガイドラインをRAG ― つまり回答生成の根拠として直接参照できる。
すべての回答に引用が付いていて、検証可能です。
医療田:
ふんふん、、
あ、でもそれって、ChatGPTやGeminiでもできるんじゃないの? 医学文献を参照して回答するくらい。
機械屋:
実は、そこが決定的に違うところです。
ChatGPTやGeminiは、NEJMやJAMAと正式なライセンス契約を結んでいるわけではありません。
つまり、これらの質の高い文献を合法的にgrounding ― 回答の根拠づけ ― に使うことができないんです。
医療田:
あー、、なるほど。。
論文のフルテキストやガイドラインの原文を「検索して引用する」には、出版社との契約が要る、ってことか。
機械屋:
その通りです。
OpenEvidenceは300以上の医学誌と契約し、さらにそれを医師には無料で提供している。
ライセンス契約 × 無料アクセス ― この組み合わせが、他のLLMには真似しにくい強い差別化になっています。
医療田:
ふんふん。
で、それがどのくらい使われてるの?
機械屋:
ここがすごいんです。
2026年6月時点で、月間約3,000万件の臨床相談がOpenEvidence上で行われている、とNew York Timesが報じています。
医療田:
さ、3,000万件。。? 月に?
機械屋:
はい。しかもこれは、1年前の月間約300万件から10倍に成長した数字です。
さらに、2026年3月10日には、史上初めて、1日で100万件の臨床相談がAIと認証済み医師の間で交わされました。
医療田:
1日100万件、、
ちょっとスケール感がおかしい 笑
機械屋:
CEOのDaniel Nadler氏は、この日を「医療AIが脱出速度(escape velocity)に達した日」と表現しています。
医療田:
脱出速度。。ロケットが地球の重力を振り切るやつだよね。
つまり、もう後戻りしないところまで来た、と。
機械屋:
その通りです。
もはや「使う人が増えるかどうか」の段階ではなく、医療に不可逆的に組み込まれていく段階に入った、という宣言ですね。
実際、米国の医師の過半数が日常的に使っているとされています。
医療田:
過半数。。
Vol.8で医療AIチャットボットの話をしたときは、まだ「将来こうなるかも」って温度感だったけど、、
もう現実になってるんだね。
● 信頼の設計 ― 「壁に囲まれた庭」と「指揮者AI」
医療田:
ライセンス契約で差がつく、って話はわかった。
でもさ、こういう設計って何か名前がついてるの?
機械屋:
はい。ベンチャーキャピタルのa16z(Andreessen Horowitz)が、OpenEvidenceの設計思想を分析した記事で「Walled Garden(壁に囲まれた庭)」という表現を使っています。
医療田:
壁に囲まれた庭。
機械屋:
庭の中にはピアレビュー論文やガイドラインだけがあって、外のインターネット情報は入ってこない。
Vol.28-29でお話しした「データセキュリティから見る生成AIのタイプ」と同じ発想ですね。
どこからデータを持ってくるか、その「境界」が信頼性を決める。
医療田:
あー、あの話。覚えてる。
機械屋:
a16zはこう評しています。
「この壁に囲まれた庭は、堀(moat)であると同時に、圧倒的に優れたユーザー体験を提供する」と。
医療田:
堀。。お城の周りの、あの堀か。
ライセンス契約 + 情報の境界。二重の堀で守られてるわけだ。
機械屋:
そうです。
実際、2026年6月にはAAO(米国眼科学会)が自学会の公式ガイドラインをOpenEvidenceに統合しています。
医療田:
え、学会のガイドラインを? どういうこと?
機械屋:
AAOには「Preferred Practice Patterns(PPP:推奨診療パターン)」と「Ophthalmic Technology Assessments(OTA:眼科技術評価)」という、エビデンスに基づいた公式のガイドライン群があるんですが、これをOpenEvidenceのプラットフォームに載せたんです。
眼科医は、他のピアレビュー文献と並べて、AAOの公式ガイドラインを対話形式で検索できるようになった。しかも無料で。
医療田:
ほお。。
学会が「うちのガイドラインの検索窓口はOpenEvidenceで」って認めた、ってことか。それは重いね。
機械屋:
はい。AAOのCEO、Stephen McLeod医師は「すべての回答が引用付きで検証可能。そのレベルがすべての基準を設定している」と選定理由を述べています。
医療田:
「何に基づいて言ったか」がわかる。
私たちの世界では、そこが信頼の生命線だからね。
機械屋:
はい。技術面でも特徴があります。
OpenEvidenceは「マルチエージェント・アーキテクチャ」を採用しています。
中央の「指揮者(conductor)」AIが、医師の質問内容に応じて最適な分科専門モデルに動的にルーティングする仕組みです。
医療田:
指揮者AI。。オーケストラみたいだね。
循環器の質問は循環器AIに、腫瘍の質問は腫瘍AIに、ってこと?
機械屋:
そのイメージです。
ちなみにCMO(チーフ・メディカル・オフィサー)のTravis Zack医師は、UCSFの血液腫瘍内科の助教でもあります。
Zack医師はNEJM AI Grand Roundsというポッドキャストで、医療を「検索問題」と位置づけています。
膨大なエビデンスの中から、目の前の患者に本当に必要な情報を引き出す ― その検索の質を極限まで高めるのがOpenEvidenceの本質だ、と。
医療田:
医療は検索問題、、
ちょっとドキッとする表現だけど、、たしかに。
毎日の臨床って、ガイドラインを確認したり、最新の論文を調べたり、「探す」作業にかなりの時間を使ってるよね。
30分かかる検索が5秒になったら、、そりゃ行動変わるよね。
機械屋:
まさにZack医師もそう述べています。「エビデンスを確認するハードルが30分から5秒に下がれば、行動が変わる」と。
● 利用そのものがデータ資産になる ― フィードバックループという発想
医療田:
ここまで聞くと、すごく高品質な「医学検索エンジン」って感じだよね。
でもさ、検索だけなら、いずれGoogleとかが追いつきそうじゃない?
機械屋:
するどいですね。
実は、OpenEvidenceの本当に面白いところは、「情報提供」にとどまらない点にあるんです。
医療田:
、、というと?
機械屋:
さっきのAAOの話に戻りますが、あの提携には実はもう一つの側面があります。
プレスリリースにこうあるんです。
「OpenEvidenceは学会に対し、眼科医が特に関心を持つトピックや、既存ガイダンスの潜在的なギャップを特定する利用情報を提供する。このフィードバックループは、学会が今後のコンテンツ開発の優先順位を決められるよう設計されている」
医療田:
あ、、なるほど。。
さっきは「学会のガイドラインをOpenEvidenceに載せた」って話だったけど、逆方向もあるんだ。
何万人もの眼科医がOpenEvidenceに投げている質問を集約して、「いま現場で何が困られているか」「どのガイドラインが足りていないか」を学会に返している、ってこと?
機械屋:
その通りです。
同様の仕組みは、ACOG(米国産科婦人科学会)との提携(2026年5月)でも確認されています。
さらに、NEJM(2025年2月)、JAMA(2025年6月、11専門誌を含む)、NCCN、ASCO(2026年5月)など、主要な出版社・学会との提携が次々と進んでいます。
医療田:
、、これ、すごくない?
普通、学会がガイドラインを改訂するときって、エキスパートが集まって、文献をレビューして、ときにはアンケート調査もして、、って、すごく時間がかかるプロセスだよね。
機械屋:
はい。それが、OpenEvidenceのプラットフォーム上で日々行われている何百万件もの臨床相談から、リアルタイムに「現場の声」が可視化されるわけです。
CEOのNadler氏はCNBCのインタビューでこう述べています。
「数億件の実臨床相談を既に蓄積しており、このフィードバックループは複製が極めて困難です。提携だけでなく、実世界の利用データが鍵なのです」
医療田:
、、「利用そのものがデータ資産になる」か。
なんかこれ、発想の転換だよね。
普通、AIって「便利な道具」として使われて終わり、ってイメージだった。
でもOpenEvidenceは、医師が使えば使うほど、医学界全体にとって価値のあるデータが蓄積されていく。
機械屋:
おっしゃる通りです。
この好循環は、時間とともに加速します。
利用者が増える → フィードバックの精度が上がる → ガイドラインが改善される → さらに利用者が増える。
なお、OpenEvidenceには臨床試験マッチング機能もあります。患者の診断・治療歴をClinicalTrials.govの試験と照合してくれるんですが、、
こうした利用データの蓄積が進むと、将来的には、医師が検索する前にAI側から「この患者さんに適合する臨床試験がありますよ」と能動的に知らせるような仕組みも考えられる、、という話も聞こえてきます。
医療田:
プッシュ型、、
それは確かに「検索エンジン」を超えてるね。。
でもさ、逆に言うと、こういう仕組みを先に確立したところが圧倒的に有利になるよね。
データの蓄積量が違うんだから。
機械屋:
まさにそこが「堀」なんです。
シリーズDで2.5億ドル(約375億円)を調達し、評価額は120億ドル(約1.8兆円)。
Thrive CapitalのKareem Zaki氏は、「OpenEvidenceは事実上、米国における医学知識のデフォルトのオペレーティングシステムだ」と評しています。
医療田:
医学知識のOS、、
そこまで言うか。。
機械屋:
実際に、大規模な医療機関への全社導入も進んでいます。
Sutter Health(2026年2月)、Mount Sinai(7病院、2026年3月)、Cedars-Sinai(2026年5月、電子カルテとの連携も含む)。
医療田:
電子カルテとの連携まで。。
もう完全に「ツール」じゃなくて、医療インフラだね。
● 今回の教訓
医療田:
にしても、、
日本にいると、こういうスケールの話って、ちょっと遠く感じちゃうんだよね。。
機械屋:
気持ちはわかります。
ただ、OpenEvidenceの事例が示しているのは、特定の国の話というよりも、「医療AIがどうあるべきか」の一つの到達点だと思うんです。
医療田:
到達点。
機械屋:
はい。医療は本来、「エビデンスに基づいて判断する」世界です。
そしてそのエビデンスは日々膨大に生み出されていて、一人の医師がすべてを追いかけるのはもう不可能に近い。
それを対話形式で引き出せて、引用付きで検証可能で、しかも利用実績がエビデンスの改善に還元される。
これは、AIと医学の関係が「便利な道具」から「共進化する仕組み」に変わりつつある、ということだと思います。
医療田:
共進化、、
ちょっと話がズレるかもだけどさ、
私が思ったのは、「使うことそのものが貢献になる」って、不思議な感覚だなってこと。
いままでは、「論文を書く」とか「学会で発表する」が医学への貢献だった。
でも、日々の臨床でAIに質問をする、それだけで医学全体が前に進む可能性がある。。
機械屋:
ある種の「集合知」ですね。
松下幸之助さんの「衆知を集めて経営する」ではありませんが、、
ここでの「衆知」は、医師が意図的に提供するものではなく、日常の臨床業務のなかで自然に蓄積されるもの。
そこが、従来の集合知とは質的に違うところかもしれません。
医療田:
「意図せず貢献する」、、か。
でも、それで医学が進歩するなら、悪くない話だよね。
機械屋:
はい。では今回のポイントを整理しましょうか。
OpenEvidenceは、GPTモデルを基盤にした医療AIプラットフォーム。NPI認証済みの医師には全機能が無料で解放され、米国の医師の過半数が利用。月間約3,000万件の臨床相談が行われている
NEJM・JAMAなど300以上の医学誌と正式にライセンス契約を結び、他のLLMにはできない高品質な根拠づけ(grounding)を実現。すべての回答が引用付きで検証可能(「壁に囲まれた庭」設計)
学会(AAO、ACOG等)へのフィードバックループにより、「現場で何が問われているか」「ガイドラインのどこにギャップがあるか」を還元。利用そのものがデータ資産になる
評価額120億ドル(約1.8兆円)、主要病院の全社導入が進むなど、「医療インフラ」として認知されつつある
AIと医学の関係は「便利な道具」から「共進化する仕組み」へ。使うことそのものが、医学全体を前に進める時代が来ている
医療田:
うん。。
日本の医療もいずれこういう方向に進むのかな。
楽しみでもあり、、いろいろ考えちゃうところでもあるけど。
でもさ、今日の話で思ったのは、
やっぱり「使うこと」が大事なんだってこと。
使うことで、自分だけじゃなくて、全体が前に進む。
そう思うと、ちょっとワクワクしない?
機械屋:
しますね^^
次回も、そのワクワクをお持ちします。
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● よくある質問(FAQ)
Q. OpenEvidenceとは何ですか?
A. GPTモデルを基盤にした医療AIプラットフォームです。NPI(米国の医師識別番号)で認証された医師・医療従事者には全機能が無料で解放されます(一般の方も1日2回まで利用可能)。NEJM、JAMAなどのピアレビュー文献のみを参照し、引用付きで臨床上の疑問に回答します。2026年6月時点で米国医師の過半数が利用し、月間約3,000万件の臨床相談が行われています。
Q. OpenEvidenceとChatGPTの違いは何ですか?
A. 最大の違いは、OpenEvidenceがNEJM・JAMA・NCCNなどと正式にライセンス契約を結び、これらの論文・ガイドラインの原文をRAG(回答の根拠づけ)に直接利用できる点です。ChatGPTやGeminiにはこうした契約がなく、同じ品質のgrounding(根拠づけ)を行うことができません。
Q. OpenEvidenceの「壁に囲まれた庭(Walled Garden)」とはどういう意味ですか?
A. 回答生成に使うデータソースを、ライセンス契約を結んだピアレビュー医学誌(300誌以上)・FDA添付文書・CDCガイドライン・学会診療ガイドラインに厳格に限定している設計思想です。オープンインターネットの情報は使いません。a16zはこれを「堀であり、優れたユーザー体験でもある」と評価しています。
Q. OpenEvidenceの「フィードバックループ」とは何ですか?
A. 医師の利用データ(関心の高いトピック、既存ガイダンスのギャップ等)を、AAO(米国眼科学会)やACOG(米国産科婦人科学会)などの学会に還元する仕組みです。学会はこの情報を活用して、ガイドライン開発の優先順位を決められます。
Q. 日本の医師もOpenEvidenceを使えますか?
A. 現時点では、NPI(米国の医師識別番号)による認証が前提のため、米国の医師・医療従事者が主な対象です。ただし、「利用データの学会へのフィードバック」というモデルは、今後の医療AI全般に影響を与える可能性があります。
Q. OpenEvidenceの企業規模はどのくらいですか?
A. 2026年1月のシリーズDで2.5億ドル(約375億円)を調達し、評価額は120億ドル(約1.8兆円)。過去12か月の総調達額は約7億ドルです。Sutter Health、Mount Sinai、Cedars-Sinaiなど、米国の主要医療機関への全社導入も進んでいます。
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●参考
OpenEvidence シリーズD発表(Business Wire、2026年1月21日)
OpenEvidence × AAO提携(Business Wire、2026年6月9日)
https://www.businesswire.com/news/home/20260609612798/en/
OpenEvidence 1日100万件達成(PR Newswire、2026年3月12日)
a16z「Fruits of the Walled Garden」
https://a16z.com/fruits-of-the-walled-garden/
Becker's Hospital Review「OpenEvidence: 6 things to know」(2026年6月)
●関連記事
Vol.8「患者に寄り添う生成AI 医療におけるAIチャットボットの活用について」
https://www.youichimachida-ai.com/blog/2aivol8-aiai-
Vol.28「データセキュリティから見る生成AIのタイプ」
https://www.youichimachida-ai.com/blog/2ai-vol28ai
Vol.29「続:データセキュリティから見る生成AIのタイプ」
https://www.youichimachida-ai.com/blog/unh60mwm8k26mxl5vmjt4wd4r1ewgw
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