2分で読める生成AIのいま VOL.83 生物学から見たAI ④-1 ―「進化」で読み解く、AIの過去
新シリーズ「○○から見たAI」、第4の切り口は「生物学」です。歴史・材料・地政学に続き、今回はAIの進化を生命の進化に重ねてみます。カンブリア爆発、大量絶滅、そして収斂進化――生物学のレンズで見ると、AIの70年が驚くほど「進化のセオリー」に沿っていることが見えてきます。
(※2026年10月時点の情報です。)
今回も医療田さんと機械屋さんの会話でどうぞ。
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機械屋:
「○○から見たAI」シリーズ、第4弾です。
今回のレンズは「生物学」です。
医療田:
お。
それはちょっと嬉しいかも。
やっと私のホームに近い話が来た。
機械屋:
ははは。。
ただ今日は、臨床の生物学というよりは「進化生物学」の話になります。
医療田:
ダーウィンの進化論、ね。
まあ進化とか発生学は医学部でもやったよ。だいぶ忘れてるけど 笑
機械屋:
今日やりたいのは、
AIの進化の歴史を、生命の進化の歴史と重ねてみることです。
すると、AIの70年が、まるで教科書通りの「進化のパターン」を辿っていることが見えてくる。
医療田:
面白そう。やろうやろう。
● カンブリア爆発 ―― 「眼」が引き金を引いた日
機械屋:
まず、ひとつ質問です。
「カンブリア爆発」って覚えていますか。
医療田:
覚えてるよ。
5億4000万年くらい前に、
それまで単純な生き物しかいなかったのに、
いきなり多様な動物がドカンと出現した、っていうやつでしょ。
機械屋:
そうです。
で、なぜカンブリア爆発が起きたのか。
有力な仮説のひとつが、アンドリュー・パーカーの「光スイッチ説」です。
医療田:
あ、それ聞いたことある。
たしか「眼」が生まれたから、っていう話だよね。
機械屋:
ええ。
それまでの生き物は、「見えない世界」で暮らしていました。
ところが三葉虫の仲間が「眼」を獲得した。
すると、「見える捕食者」から逃げるために、
あらゆる生き物が殻を作り、棘を生やし、速く泳ぎ、穴を掘った。
ひとつの能力の獲得が、生態系全体の軍拡競争を引き起こしたんです。
医療田:
なるほど、、。
で、それがAIとどう重なるの?
機械屋:
2017年。
Googleの研究チームが「Transformer」という新しいAIアーキテクチャを発表しました。
そこで使われた「Attention(注意機構)」という技術。
これが、いわばAIにとっての「眼」だったんです。
医療田:
AIが「眼」を手に入れた、、?
機械屋:
ええ。
それまでのAIは、テキストを前から順番に、一方向に読むしかなかった。
でもAttentionは、文章全体を一度に見渡して、
どの単語がどの単語と関係しているかを瞬時に把握できる。
言語を「見る」ことができるようになったんです。
東大の松尾豊先生も、まさにこの比喩で
「機械が目を持つ時代」「AIのカンブリア爆発」と表現されています。
医療田:
、、で、その「眼」を手に入れた結果が。
機械屋:
爆発です。
GPT、BERT、T5、PaLM、Claude、Gemini、LLaMA、DeepSeek。
2017年以降、とくに2022年のChatGPT以降、
AIの種類と能力が一気に多様化しました。
テキスト、画像、音声、動画、コード生成。
まさにカンブリア爆発と同じ構図です。
医療田:
たしかに、、
2022年からのAIの出てくるスピードって尋常じゃないよね。
しかも全部の分野で同時に。
画像診断AIだって、ここ数年で一気に増えた。
放射線科医としては他人事じゃないよ、正直。
機械屋:
ここが重要なポイントなんですが、
カンブリア爆発は、眼を「持つ側」だけでなく、「持たない側」も変えたんです。
捕食者の眼から逃れるために、殻を発達させたり、深海に潜ったり、擬態を始めたりした。
同じように、Transformerは、
AIを作る企業だけでなく、
AIを「使わない」と決めた組織の行動も変えています。
医療田:
、、あぁ。
例えば病院でも、
最初は「うちはまだAIは導入しない」っていていても、
周りが使い始めたら「なぜうちは使わないのか」って説明を求められる。
「持たない側」も変わらざるを得ない、か。
機械屋:
まさにそうです。
進化の圧力は、能力を持った側だけでなく、生態系全体にかかるんです。
医療田:
、、ねえ、いまがその爆発の真っ最中なんだとしたらさ、
この先、まだ加速するの?
もう十分すごいんだけど、、。
機械屋:
生物のカンブリア爆発は、始まってからおよそ2000万年続きました。
AIの「爆発」が始まってまだ数年です。
進化のアナロジーで言えば、、まだ序盤ですね。
医療田:
、、2000万年のうちの、数年。
機械屋:
もちろん、生物の進化とAIの進化ではスピードが違いますから、
単純な比較はできません。
ただ、「爆発はまだ続く」という方向感は、
多くの専門家が共有している見方かと思います。
医療田:
、、覚悟しとかないとだね。
● 大量絶滅 ―― AIの「冬」は進化のリセットだった
機械屋:
さて、ここで少し時間を巻き戻します。
生命の歴史には、「大量絶滅」が少なくとも5回ありました。
地球上の種の大半が消え去る、壊滅的な出来事です。
医療田:
恐竜の絶滅が一番有名だよね。
6600万年前の小惑星衝突。
機械屋:
ええ。
実は、AIにも「絶滅」に近い時代があったんです。
「AIの冬」と呼ばれています。
医療田:
AIの冬。。
機械屋:
1回目は1970年代。
1950〜60年代に「パーセプトロン」という初期のニューラルネットワークが注目を集めていました。
ところが1969年、MITのミンスキーとパパートが、
「パーセプトロンには原理的な限界がある」と数学的に証明してしまった。
医療田:
それで?
機械屋:
研究資金が一気に凍りました。
イギリスでは政府の報告書が「AIは約束を果たしていない」と断じて、
AI研究への公的資金がほぼゼロに。
約6年間、AIの研究はほぼ止まった。
医療田:
うわ、、厳しいね。
機械屋:
2回目は1980年代末から90年代初頭。
「エキスパートシステム」という、
人間の専門家のルールをプログラムに書き込むアプローチが一世を風靡しました。
でも、ルールが増えるほど矛盾が生じて、維持コストが爆発して、破綻した。
日本の「第五世代コンピュータプロジェクト」も、この時期に終了しています。
医療田:
2回も冬があったんだ、、。
それ、けっこう絶望的じゃない?
機械屋:
ところが。
ここが、生物学のレンズで見ると面白いところなんです。
大量絶滅って、悲劇なんですが、
実はその後に必ず「爆発的な多様化」が起きている。
医療田:
あ、、。
機械屋:
恐竜が絶滅したあと、空いた生態的ニッチに哺乳類が急速に広がりました。
人間が存在するのは、恐竜が絶滅したからです。
同じように、AIの冬で「エキスパートシステム」が消えたからこそ、
そのニッチに「機械学習」という新しいパラダイムが入り込めた。
医療田:
つまり、、
「冬」がなかったら、いまのAIはなかったかもしれない、っていうことかな?
機械屋:
まさにそうです。
エキスパートシステムがうまくいき続けていたら、
機械学習やディープラーニングに研究リソースが回ることはなかったかもしれない。
「古いパラダイムが行き詰まる」ことが、次のパラダイムを育てる余地を作った。
医療田:
、、なんか免疫系の話にも似てるかも。
一回ウイルスにやられて、
そこから抗体ができて、次に備える。
「やられた経験」が、次の進化の材料になるわけだ。
機械屋:
いい比喩ですね。
免疫系も進化の産物ですし、
「失敗が次の適応を促す」という構造は共通しています。
医療田:
、、なんか救われるね、それ。
行き詰まりが、次の何かにつながるかもしれないって思えるのは。
機械屋:
ええ。
「冬」を経験した分野は、AIに限らず、
たいてい次のステージで飛躍的に成長しているんですよね。
医療田:
、、。
でもさ、ちょっと待って。
逆にいうとさ、
いまのこの爆発も、いつかまた「冬」が来るってこと?
それは、、ちょっと怖いんだけど。
機械屋:
進化のパターンに従えば、可能性はあります。
ただ、来たとしても、それは「終わり」ではなく「リセット」です。
その先に、また新しい爆発が待っています。
生命は46億年、ずっとそうやって前に進んできましたからね。
医療田:
、、46億年かけて、ここまで来た。
機械屋:
怖がるなとは言いません。
ただ、パターンを知っておくと、
「何が起きるかわからない」よりはずっと落ち着いて構えられますよね。
それが、進化を学ぶ意味かと思います。
医療田:
、、パターンを知ること自体が、備え、か。
うん、、それはちょっとわかる気がする。
● 収斂進化 ―― タコの眼とTransformerの謎
機械屋:
最後にもうひとつ、面白い進化の概念を紹介させてください。
「収斂進化」です。
医療田:
あ、収斂進化は知ってるよ。
全然違う系統の生き物が、同じような構造を独立に進化させる現象でしょ?
機械屋:
そうです。
代表例はなんでしょう。
医療田:
タコの眼と人間の眼、かな。
共通祖先は5億年以上前に分岐してるのに、
どっちも「カメラ眼」を独立に進化させた。
しかもね、これ放射線科医としては悔しいんだけど、
タコの眼のほうが設計として合理的なんだよ。
網膜の構造が「正しい向き」になってて、盲点がない。
機械屋:
さすが、そこまでご存知とは。
実は、AIの世界でもまったく同じことが起きているんです。
医療田:
え?
機械屋:
先ほど話した「Attention(注意機構)」。
2025年の研究で、この技術が少なくとも5回、
異なる研究グループによって独立に発明されていたことが明らかになりました。
医療田:
5回?
機械屋:
ええ。
自然言語処理、コンピュータビジョン、動画処理、マルチモーダル。
異なる分野の、論文を共有していない別々のチームが、
ほぼ同時期に同じ仕組みにたどり着いていたんです。
医療田:
、、それ、タコの眼とまったく同じ構図じゃない。
機械屋:
その通りです。
収斂進化が起きるということは、
その構造が「環境に対する最適解」であることを意味します。
つまり、Attentionという仕組みは、偶然の産物じゃない。
いまの環境条件――大量のテキストデータと並列計算能力――のもとでは、
いずれ誰かが必ずたどり着く「必然」だった。
医療田:
、、ってことは、逆に言うと、
「環境」が変わらない限り、Transformerに代わるものは出にくい、っていうことかな?
機械屋:
鋭いですね。
生物学的に言えば、そうです。
サメとイルカが似た体型なのは、水中という環境が変わらないから。
ただし――環境そのものが変われば、最適解も変わります。
量子コンピュータとか、ニューロモーフィックチップとか、
計算環境が根本から変われば、Transformerとはまったく違う「種」が台頭するかもしれません。
最近ではAttention機構の次世代のものが出つつある、と聞いたりしますけどね。
"Attention Is All You Need." ならぬ "Screening Is Enough." だったかな。
医療田:
なんという挑戦的なタイトル。。。
でも、、進化は止まらない、か。
● まとめ
機械屋:
今回のポイントをまとめましょう。
・カンブリア爆発と「光スイッチ説」。眼の誕生が生態系全体を変えたように、Transformerの登場がAI生態系全体を変えた。しかも、この爆発はまだ始まったばかり。
・AIの「冬」は大量絶滅と同じ構造。古いパラダイムが消えることで、新しいパラダイムが育つニッチが生まれた。次の「冬」が来ても、それは終わりではなくリセット。
・Attentionの独立5回発明は収斂進化そのもの。いまのAIの方向性は偶然のブームではなく、環境に対する「必然の解」。ただし、環境が変われば最適解も変わる。
医療田:
、、不思議だよね。
人間が作ったはずのAIが、
人間を生み出した進化と同じパターンで動いてるって。
機械屋:
面白いのは、この3つが「過去の話」で終わらないところなんですよね。
爆発のあとには何が来るのか。
絶滅のあとに何が育つのか。
収斂の先には何があるのか。
進化論は、そこまで教えてくれるんです。
医療田:
、、つまり、この先も予測できる、っていうことかな?
機械屋:
完全には予測できませんけどね。
次回はその話をしましょう。
種分化、共生、エピジェネティクス。
AIはひとつの「種」のまま進化するのか、それとも分かれていくのか。
AIと人間は「共進化」するのか。
医療田:
、、ちょっと怖いけど、聞きたい。
パターンを知ったうえで聞くなら、怖さも違うと思うし。
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● よくある質問(FAQ)
Q1. 「カンブリア爆発」とAIの関係は?
A1. 5億4000万年前、眼の誕生が生態系全体の爆発的多様化を引き起こしたカンブリア爆発と、2017年のTransformer登場以降のAIモデルの爆発的多様化は、「ひとつの技術革新が生態系全体を変える」という共通構造を持ちます。進化の圧力は、新しい能力を持った側だけでなく、持たない側にもかかります。
Q2. 「AIの冬」は何回あった?
A2. 2回です。1回目は1970年代(パーセプトロンの限界が証明され、研究資金が凍結)。2回目は1980年代末〜90年代初頭(エキスパートシステムが破綻)。どちらも「古いパラダイムの絶滅」が次のパラダイムの成長余地を作り、大量絶滅後の適応放散と同じ構造を示しています。
Q3. 「収斂進化」がAIで起きているとはどういう意味?
A3. Attention(注意機構)が少なくとも5つの異なる研究グループによって独立に発明されていたことが2025年の研究で判明しています。タコと人間が独立にカメラ眼を進化させたのと同じ「収斂進化」であり、Attentionが偶然の発明ではなく、環境条件に対する最適解であることを示唆しています。
Q4. AIの進化はこれからも生物の進化と同じパターンを辿る?
A4. 生物学的に言えば、環境が変わらない限り現在のパラダイム(Transformer)が続きますが、量子コンピュータなどで計算環境が根本から変われば、新しい「種」が台頭する可能性があります。次回Vol.84では、AIの未来を種分化・共生・エピジェネティクスで読み解きます。
● 参考
1. Andrew Parker "In the Blink of an Eye: How Vision Sparked the Big Bang of Evolution" (2003)(邦訳『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』)
2. Attention Is All You Need — Vaswani et al., NeurIPS 2017
https://arxiv.org/abs/1706.03762
3. Universal statistical signatures of evolution in artificial intelligence architectures (2025)
https://arxiv.org/abs/2604.10571
4. ChatGPTで見えてきた「機械が目を持つ」時代、AIがもたらすカンブリア爆発の世紀へ — 松尾豊氏対談
https://forum.j-n.co.jp/narrative/7205/
5. The AI Winter: Why AI Almost Died (Twice) — Beginners in AI
https://beginnersinai.org/ai-winter/
6. AI Winter: Understanding the Cycles of AI Development — DataCamp
https://www.datacamp.com/blog/ai-winter
7. Convergent evolution explained with 13 examples — Natural History Museum
https://www.nhm.ac.uk/discover/convergent-evolution.html
8. History of AI Timeline: 1943 to 2026 — zPlatform.ai
https://zplatform.ai/guides/history-of-ai-timeline/
9. Punctuated Equilibria in Artificial Intelligence: The Institutional Scaling Law and the Speciation of Sovereign AI (2026)
https://arxiv.org/abs/2603.14664
10. Screening Is Enough — Multiscreen architecture (2026)
https://arxiv.org/abs/2604.01178
11. Brain-AI convergence: Generative world models and hierarchical attention for human intelligence (2026)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666389926001029
●関連記事
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https://note.com/41machida_ai/n/n6e2d2889df18
- 2分で読める生成AIのいま Vol.68 AIエージェントの「中身」を知る(note)
https://note.com/41machida_ai/n/nab211b18ed89
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https://www.youichimachida-ai.com/blog/2ai-vol55ai-0251mai
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https://www.youichimachida-ai.com/blog/2ai-vol54ai-ai
●2分で読める「生成AIのいま」シリーズ。バックナンバーはブログからどうぞ!
https://www.youichimachida-ai.com/blog
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町田洋一(医師・医学博士・経営管理学博士)
Youichi MACHIDA, MD, PhD, DBA