2分で読める生成AIのいま Vol.50赤字病院7割の時代、AIに何ができるか──放射線科医が現場から考える

病院の7割が赤字。これは、いま日本の医療現場で起きているリアルな数字だ。 診療報酬という「収益の天井」を持ちながら、コストだけが上がり続ける構造。 放射線科医として現場に立ちながら、AIで本当に何かできるのかを正直に語ります。

【この記事のポイント】 ・日本の病院の74.6%が医業赤字(2024年度)。収益・コスト・生産性の三重苦が構造的原因 ・AIは「書類自動化」「診断支援」「経営データ分析」の3領域で貢献できる ・2026年6月の診療報酬改定でDX推進への評価加算が議論されており、導入が収益改善につながる可能性がある

今回も医療田さんと機械屋さんの会話でどうぞ。 今号は、現役医師からのやや重い話から始まります。

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● 病院の7割が赤字って、本当なの?

医療田:ねえ機械屋さん。 最近、病院の経営の話、ちょっと暗くなってきてない、、?

機械屋:そうですね。データを見ると、結構シビアな状況です。 2024年度の調査では、一般病院の74.6%が「医業赤字」という状態になっています。

医療田:74%って、、ほぼ全部じゃないか。。

機械屋:ほぼ全部ですね。 公立病院に至っては、2024年度の赤字が過去最大の3,952億円に達しています。

医療田:数字が大きすぎてピンとこないんだけど、 なんでこんなことになってるの?

機械屋:構造的な話なんですが、大きく3つの「壁」があります。

1つ目が「収益の天井」です。 病院の収益は診療報酬という国の基準で決まっていて、 基本的に自分たちで価格を上げることができません。

医療田:そうなんだよね。。 「明日からちょっと値上げします」って言えないよね、スーパーじゃないから。

機械屋:ははは。。おっしゃる通りで。 一方でコストは上がります。これが2つ目の壁。 人件費、光熱費、医薬品。全部じわじわ増えている。

医療田:賃上げも、他業種と比べると病院って低いって聞いたよ。

機械屋:そうなんです。病院の賃上げ率は2.41%、 他業種の平均が5.10%なので、半分以下ですね。 優秀な人材が他業種に流れてしまうリスクもあります。

医療田:うっく。。身につまされる話だ。

機械屋:そして3つ目が「生産性の壁」です。 医師や看護師が「医療じゃない仕事」に時間を取られすぎている。 書類作成、問い合わせ対応、院内調整、会議の準備、、 これが積み重なって、本来の診療に使える時間が削られています。

医療田:これ、めちゃくちゃ実感あるんだよね、、 私、放射線科医なんだけど、 レポート書いたり、院内調整のメール返したりで 診断に集中できる時間が思ったより少なくて。

機械屋:その「生産性の壁」こそが、AIが一番貢献できる場所なんです。

● AIが刺さる3つのポイント

医療田:じゃあ、具体的に何ができるの?

機械屋:3つに整理しましょうか。

まず1つ目は「書類・記録の自動化」です。 AIツールやエージェントを使えば、 カルテ入力の補助、診断書の下書き、メール対応の草案作成、、 こういった非医療的な書類業務を大幅に削減できます。

医療田:それ、すごく欲しい。。 退院サマリーとか、書くのに時間かかるんだよね。

機械屋:ある事例では、AIで書類業務を自動化した結果、 医師の記録時間が30〜40%削減されたという報告もあります。

医療田:30〜40%って、けっこうデカいな。

機械屋:2つ目が「AI読影・診断支援」です。 これは医療田さんの専門ですね。

医療田:うん。放射線科医として正直に言うと、 AI読影ってもう「あるかないか」じゃなくて 「どう使うか」の段階に入ってきてる感じがする。

胸部CTの肺結節の検出とかは、 AIが見つけてくれるのが当たり前になってきてて。

機械屋:そうですね。特に画像診断AIは、 放射線科医が不足している地方病院にとっては 深夜や休日に医師の目が届かない時間帯をカバーできる存在になりつつあります。

医療田:ただ、AIが「ある」と「医師がいらない」は全然違うからね。 最終判断は医師だし、AIの限界も理解した上で使わないと。

機械屋:おっしゃる通りです。あくまで「支援」ですね。

医療田:3つ目は?

機械屋:「経営データの分析」です。 病院には電子カルテ、レセプト、患者フロー、スタッフのシフト、、 膨大なデータがあるのに、うまく活用できていないケースがとても多い。 AIで分析すれば「どこにムダがあるか」が見えてきます。

医療田:なるほど。。 「感覚でやってた経営判断」が「データに基づく判断」になるってこと?

機械屋:いわばそういうことです。 トヨタが30年分の技術文書を9つのAIエージェントで分析し、 技術検討にかかる時間を40%削減したという事例があります。 病院の経営判断にも、同じ発想は十分使えます。

● 「でも、うちには無理」という声について

医療田:ここで正直に言うと、 「AIとかDXとか言っても、うちの病院には無理」って 周りの人が言うの、すごくわかるんだよね。

機械屋:どういう点でそう感じますか?

医療田:まず、お金がない。 赤字なのに、AI導入の初期費用なんて出せない、って。

それと、人材がいない。 IT担当者もいないし、誰が管理するの?ってなる。

あと、「デジタルとか苦手」っていう 精神的なハードルも、正直あると思う。

機械屋:全部、リアルな声ですね。 特に「赤字なのに投資できない」という逆説は、 病院DXの一番の難所だと思います。

ただ、視点を変えると、「導入しないことのコスト」もあります。 書類業務に使っている時間は、本来なら診療に使える時間でもある。 「今のやり方のまま」にも、コストは発生しているんです。

医療田:、、確かに。 「何もしない」にもコストがかかってるってことか。

機械屋:それに2026年は、ちょっとした追い風もあります。

● 2026年診療報酬改定という「追い風」

医療田:追い風?

機械屋:2026年6月に診療報酬改定が予定されています。 今回の改定では「DX推進」が重点課題のひとつに挙げられていて、 AIや電子化を進めた医療機関には評価が上乗せされる可能性が議論されています。

医療田:え、AIを入れると診療報酬の点数がもらえる可能性があるってこと?

機械屋:まだ確定ではありませんが、その方向性で議論が進んでいます。 つまり「AI導入=コストだけかかる」ではなく 「AI導入=収益にもつながる可能性がある」という時代になりつつある。

医療田:それは、ちゃんと知っておいたほうがいい話だね。 病院の経営層の人に伝えたい。

機械屋:そうですね。「赤字だからDXは後回し」という判断が 実は「追い風を逃す判断」になる可能性があります。

医療田:なんか、、 「攻めの赤字対策」としてのAIって感じがしてきた。

機械屋:いい言葉ですね。まさにそういう発想の転換が必要だと思います。

医療田:どこかで読んだんだけど、 松下幸之助さんが「すべての難問には、必ずその問題を解く鍵が用意されている」 みたいなことを言ってたと思って。。

病院の赤字問題も、AIがその「鍵」の一部になれるといいな。

機械屋:いい引用ですね^^ 「今の自分たちに何ができるか」から始める。 それが、一番現実的で希望のある話だと思います。

● まとめ:病院DXは「贅沢」じゃなく「生存戦略」

機械屋:今回の話をまとめましょうか。

・日本の病院の74.6%が医業赤字(2024年度)。公立病院の赤字は過去最大の3,952億円 ・原因は「収益の天井(診療報酬)」「コスト増」「生産性の低さ」の三重苦 ・AIは①書類・記録の自動化 ②AI読影・診断支援 ③経営データ分析の3領域で貢献できる ・「何もしないことのコスト」も存在する。現状維持はタダではない ・2026年6月の診療報酬改定でDX推進への評価加算が議論中。導入が収益改善につながる可能性がある ・病院のDX推進は「贅沢」ではなく「生存戦略」として捉える時代に来ている

医療田:重いテーマだったけど、 最後はちょっと希望がある方向で終われた気がする。

機械屋:「うちには無理」と思う前に、 「どこから始められるか」を考えてみてください。 小さな一歩から変えられることは、絶対あります。

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● よくある質問(FAQ)

Q. 病院の赤字問題にAIはどう貢献できますか? A. 主に「書類・記録の自動化」「AI読影・診断支援」「経営データ分析」の3領域です。医師の非医療業務を削減し、診療に使える時間を増やすことで生産性を高めます。

Q. 赤字経営の病院でもAI導入はできますか? A. 小規模な業務自動化ツールから始めることで、初期投資を抑えた導入は可能です。「導入しないことのコスト(失われている診療時間)」も考慮に入れると判断の視点が変わります。

Q. 2026年の診療報酬改定とAI導入はどう関係しますか? A. 2026年6月施行の改定では「DX推進」が重点課題に位置づけられており、AI・電子化を導入した医療機関への評価加算が議論されています。AI導入が収益改善につながる可能性があります。

Q. AI読影は放射線科医の仕事を奪いますか? A. 現状では「支援する」段階です。見落とし防止や業務効率化に役立ちますが、最終的な診断判断は医師が行います。人手不足の地方病院での活用が特に期待されています。

Q. 病院のDX推進で最初に取り組むべきことは? A. まず「どの業務に一番時間がかかっているか」を可視化することです。書類作成・院内連絡・スケジュール調整などの非医療業務を把握してから、AIをどこに当てはめるかを考えると効果的です。

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●2分で読める「生成AIのいま」シリーズ。バックナンバーはブログからどうぞ! https://www.youichimachida-ai.com/blog

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