米国レーザー学会 ASLMS 2026 参加レポート

はじめに

2026年5月、米国ジョージア州サバナで開催された ASLMS 2026(American Society for Laser Medicine & Surgery, 2026 Annual Conference) に参加してまいりました。



会場はサバナの歴史地区に隣接した運河沿いのコンベンションセンターで、宿泊ホテルから会場までは毎日フェリー通勤という、なかなか非日常的な学会体験となりました。

朝日に映えるフェリー。向こうに見えるのが学会場です。



本記事は、Day1〜Day3にわたって書き留めた当日の振り返りメモを、1本の記事として再構成したものです。全体の流れを掴みたい方のために、まず学会全体を貫いていた4つのキーメッセージから整理し、その後で各日のハイライトをダイジェストでお伝えします。記事末には、本文中で触れた主要トピックの参考文献もまとめました。



なお、今回の出張にあたっては、演題のご提供と発表のご指導を賜りましたクリニックF院長・藤本幸弘先生に、この場を借りて改めて深く御礼申し上げます。





ASLMS 2026 の4つのコアメッセージ



3日間のセッションを通じて繰り返し強調されていたメッセージを、私なりに整理すると次の4つに集約されます。



1. Combination is the new norm(コンビネーションこそ新しい標準) 複数の波長・モダリティを意図的に組み合わせるアプローチが、もはや特殊技ではなく標準戦略として位置づけられていました。レーザー専門医ならではの「メーカー推奨をなぞるのではなく、自分たちの判断で再設計する」姿勢が随所に表れていました。



2. Lasers as longevity medicine(レーザーは"長寿医療"へ) 美容のために行ったレーザーが、結果として皮膚癌予防(NMSC reduction)に寄与している──そんな retrospective study が複数報告されました。"controlled wound healing" を介した senescent fibroblast の入れ替わりが、cosmetic の枠を超えた preventive medicine としての意味を帯び始めています。



3. Skin of color × DLA × LADD 低エネルギー・大スポット(large spot)・LADD(laser-assisted drug delivery)の組み合わせが、Fitzpatrick IV–VI の高 phototype 患者に対する新標準として浮上。Aesthetic tourism の時代において、日本の臨床医にも他人事ではないテーマでした。



4. Wound-healing biology > thermal-damage biology レーザーの本質は「熱損傷を入れること」ではなく「制御された wound healing を駆動すること」である──この視点の転換は、再生医療やセクレトームの議論ともきれいに繋がっていました。



それでは各日のダイジェストへ。





ホテルから学会会場への道

Day 1(5/7 木曜日)── Regenerative Medicine と Emerging Devices



再生医療への "reality check"




朝イチの「Regenerative Medicine in the World of Lasers」は、SNS で語られる期待感とは裏腹に、米国の学術界が再生医療をいかに慎重に評価しているかを浮き彫りにする内容でした。米国では幹細胞療法の承認はほぼゼロ(骨髄由来のごく一部を除く)、エクソソームに至っては承認製品ゼロ。日本の臨床医・患者にとっても重要な reality check です。




印象的だったのは、"加齢 = 慢性低レベル炎症(inflammageing)" という整理です。Aging Cell 誌の報告として、暦年齢よりも日光暴露のほうが皮膚老化の重要因子だという話も。CO2 レーザーが transcriptome を活性化させる、というメカニズムの提示も興味深いものでした。




続く「Beyond the Beam」では、 "Nobody should be injecting exosomes(誰もエクソソームを注射すべきではない)" が再三強調されました。「その会社は FDA に IND(Investigational New Drug application)を進行中か?」を確認する、という非常に明快な判断基準が提示されたのが象徴的です。




一方で注目株として登場したのが PDRN(Polydeoxyribonucleotide)。従来のサーモン由来から、Lactobacillus 由来の non-animal source PDRN が登場し、動物由来回避と smaller size による浸透性の優位性が報告されました。日本でも今後広がるトピックでしょう。




Emerging Devices と眼周囲若返り




午後の plenary では各社の新世代デバイスが一気に紹介されました ── Candela Glacé / Vbeam Pro、Sofwave PureImpact VIP、Halo Tribrid(1470 + 2940 + 1927 nm 同時照射)、AVAVA(conical beam による真皮深部 focal heating)、Cynosure Lutronic XERF(6.78 + 2 MHz dual frequency RF)。「既存波長を前提に、どの深さに、どう焦点を絞るか」「複数波長/モダリティをいかに組み合わせるか」「副作用・ダウンタイムをいかに減らすか」という、デバイス進化の3軸が浮き彫りでした。




Rapid fire 形式の「The Eyes Have It」では、CO2 fractional・Er:YAG・1550 nm non-ablative laser・Broad Band Light による dry eye(マイボーム腺機能不全)改善まで、眼周囲という極めて繊細な領域に対する多彩なアプローチが提示されました。ただし、Asian skin(Fitzpatrick III–IV)では PIH リスクが高く、彼らの設定をそのまま日本で適用するわけにはいかない、という注意は最後まで通底していました。







港にて。

Day 2(5/8 金曜日)── Combination is the New Norm





"ペアリング" がもたらすパラダイム





朝の「The Power of Pairing — Combining Modalities」は、本学会の核心を突くセッションでした。複数のレーザーを組み合わせるだけでなく、フィラー、内服薬、サブシジョンまで織り交ぜて患者ごとの outcome を最適化するという発想。レーザー専門学会だからこそ提示できる、メーカー仕様をそのまま使うのではなく専門医の知見で再設計する姿勢が貫かれていました。





一方で、波長の重ね方や順序を間違えると副作用に直結するため、Combination を生かすには知識量がそのまま安全性に直結する、という緊張感も同時に共有されていました。





印象に残った表現として、ablative laser 後のケアを単なる "post-care" ではなく "wound care(創傷ケア)" と呼ぶべきだという提案がありました。「ペット同居室禁止」レベルの厳格さで運用すべきという話も含めて、ケアと治療の中間に独立した領域として再定義する流れが起きているようです。





なお、ablative laser 後のドキシサイクリン予防投与については、私個人としては多剤耐性菌の議論や外科手術後の予防抗生剤の最近の趨勢を踏まえると、もう少し慎重な評価が必要では、という感触を持ちました。





毛髪治療と Skin of Color





「Bow to the Crown — Latest in Hair Restoration」では、AGA に対する経口ミノキシジル・フィナステリドから始まり、自宅用低出力赤外線レーザー、医療施設での 1565 nm non-ablative fractional laser(2024年 FDA 承認)、自家組織頭皮移植まで一通り。non-ablative laser + microneedling + PRP の相乗効果も印象的でした。





エクソソーム注射への懐疑的なスタンスはここでも一貫しており、現行製品は精度が低く、granuloma 形成や感染による入院症例まで紹介されたほど。「医薬品としては規制されるが化粧品としては規制されない」という loophole のもと、Sephora や Amazon で売られる製品が standardize されていない問題を業界が直視している姿勢が印象的です。





代わりに新カテゴリとして登場したのが セクレトーム(secretome) ── 幹細胞分泌物(成長因子・cytokine・マトリクスタンパク質などの混合物)の総称で、エクソソーム単体より広い概念です。患者の毛根から採取した細胞を cell bank に保管 → 必要時に製剤化 → fractional laser や超音波で経皮 delivery、というブラジルの clinical trial が紹介されており、今後の発表に注目です。





「Skin of Color: Best Practices for Lasers and EBD」では、組織学的に Type IV–VI ではメラノソームが表皮全層に dispersed(Type I–III では basal layer 中心に packaged)という配置の違いが、PIH や hypopigmentation の根本原因として再確認されました。





Safety principle としては、メラニンに吸収されにくい長波長 Nd:YAG(1064 nm)の選択、non-ablative の優先、RF など chromophore 非依存 modality の活用、長い pulse duration、aggressive skin cooling など。ablative resurfacing は skin of color において事実上の禁忌、というスタンスは日本では認識が薄いかもしれません。





ピコ秒・ナノ秒レーザーは集患ツールとしてフルビームモードで使われる場合、selective photothermolysis でメラニン全体を破壊して PIH リスクを高めるという当て方の問題も整理されました。Aesthetic tourism の時代を見据えると、Fitzpatrick V–VI 患者への対応は決して他人事ではありません。

二日目終了後の夕食。よくわからずに頼んだらピザ丸々一枚が来てしまった。。おなか減っていたのでおいしくいただきましたがw。






Day 3(5/9 土曜日)── Lasers in Medicine と Longevity Medicine







"ASLMS の M は Medicine"


朝イチの「Lasers in Medicine」では、血管腫、小児皮膚異常、瘢痕、各種メラニン沈着疾患、白人で悩みの種となる赤ら顔(rosacea)、その亜型である rhinophyma(鼻瘤) に対するレーザー形成術まで、cosmetic を超えた "medical laser" のレパートリーが網羅的に提示されました。日本人にはほとんど馴染みがない rhinophyma に対する looped wire 切除 + fractional CO2 での再造形を目の当たりにできたのは貴重な経験でした。







ここで私自身の演題についても触れさせてください。PDL(pulsed dye laser)抵抗性の広範囲血管腫に対する、LBO crystal ベースの長パルス 532 nm レーザーと long-pulse 1064 nm Nd:YAG の逐次併用アプローチ について、その治療効果・機器特性・術中疼痛を3症例ベースで報告しました。







LBO(Lithium Triborate)は KTP と比較して non-critical phase matching・walk-off の最小化・低吸収・高損傷閾値 といった光学特性に優れ、532 nm パルスを広範囲に均一照射できる点が大きな利点です。ASLMS の場でも LBO 結晶を活用した 532 nm の応用は依然マイナーな立ち位置で、KTP 中心の議論の中に LBO という選択肢を提示できたことは、私たちなりの貢献だったかもしれません。







朝のセッションを通じて改めて感じたのは、ASLMS の "M" がまさしく Medicine を指している、という重み でした。ともすればCosmeticに傾きがちな視野を、レーザー医学そのものの広さに引き戻してくれる時間でした。







Tech Connect と "GLP-1 era"







10時からの「Tech Connect」は、メーカー・KOL がそれぞれの最新機・新機能を瞬きする間もない4分トークで提示するライトニングセッション。2時間ぶっ通しの密度に圧倒されつつも、全体を貫くキーワードがありました。それが "GLP-1 era" です。







米国ではすでに GLP-1 receptor agonist(semaglutide など)は普及済みの前提となり、その後に続く skin laxity 急増にどう対処するか、つまり "GLP-1 後のシークエンスをどう設計するか" がもはや臨床ディスカッションの中核トピックとなっていました。Body contouring / skin tightening のデバイスが計6機(monopolar capacitively coupled RF、synchronized ultrasound parallel beam、dual frequency monopolar RF、HIFES + synchronized RF、RF microneedling、visualization-enhanced HIFU)紹介されたのも、需要を裏打ちする光景でした。







私にも馴染みのある EMFACE(HIFES + synchronized RF) の発表では、筋収縮による facial contouring の効果が、照射部位ごとの volume 変化として客観的に計測されていました。とりわけ、25年前の Bell's palsy 後遺症で笑顔の対称性に長くコンプレックスを抱えてきた女性が、EMFACE 治療で対称性のある笑顔を取り戻せた、という臨床エピソードは、美容デバイスが function restoration の役割を果たしうるという象徴的な症例で、強く心に残りました。







もう一つの注目は 1726 nm 波長。水よりも sebum(皮脂)に対して特異的に吸収曲線が立ち上がるという特性を活かし、皮脂腺自体を選択的に thermolysis することで尋常性ざ瘡を治療するアプローチで、AviClear(Cutera)系のデバイスが代表格です。「多感な思春期に強い瘢痕(acne scar)を作ってしまう前に、原疾患のニキビ自体を laser で治してしまう」というパラダイムは、後年の scar revision を必要としない子供を増やせる、という意味で、長期コスト・心理コスト両面で意義深いものでした。







Longevity Medicine としてのレーザー







午後の「Ablative and Non-Ablative Lasers: Principles, Protocols, and Outcomes」は基本に立ち返るリフレッシャーコース的なセッションながら、最も印象的だったのは "longevity medicine としてのレーザー" というパラダイム提示です。







Retrospective study として提示されたのは、non-ablative fractional laser を受けた美容患者は、約7.5年後の non-melanoma skin cancer(NMSC)再発率が 40.4% → 21% まで低下 したというデータ。さらに ablative fractional でも、pulsed dye laser 単独でも同様の NMSC reduction 効果が確認されているとのことでした。







考えられる機序は、laser injury → IGF-1 増加 → DNA損傷修復系(NER 等)の強化 → senescent fibroblast の入れ替わり。その結果、neoplastic cells を wound healing cells が "outpace"(増殖速度で凌駕)する構図ではないか、という説明でした。







「コラーゲンが増えるのは結果であり、真因は senescent fibroblast の turnover にある」 という枠組みは美しく、これは美容のための laser がそのまま preventive medicine(皮膚癌予防)に繋がることを示唆します。Day1 で議論されたエクソソーム・幹細胞などの "regenerative medicine" は業界全体としてはまだ懐疑的に扱われている一方で、既存の laser device がすでに driver として regenerative medicine の役割を果たしていた──この視点は、レーザー施術における新たな効能の発見と言えるでしょう。







Scar Solutions ── ASAP アルゴリズム







学会最後のセッションは「Scar Solutions」。ブラジルの女性演者から提示された ASAP(Assessment / Soften / Approach / Pigmentation) という4段階アルゴリズムが秀逸でした。







中でも S(Soften) の段階が出色で、注射や laser を入れる前に、まず hydrocolloid または silicone dressing で 1〜2週間 prolonged occlusion を行い、keloid・hypertrophic scar を物理的に "ふやかす"。慢性的な炎症が瘢痕形成・拡張を駆動しているなら、その炎症をまず dressing で鎮めてから治療を組み立てる──極めて理にかなった発想です。







特に 高 phototype の scar 治療(PIH リスクが高く、低エネルギー設定が必須)へのアプローチとして、頭の引き出しに留めておく価値があると感じました。durometer(手のひらサイズの硬度計)で患者本人が改善を可視化できる仕組みも秀逸で、scar 患者の depression / 低 self-esteem に対して "見える進捗" を提供するという心理面の配慮まで含めて、よく練られた protocol だと思います。







街中ですが、よくリスを見かけました。とてもすばしっここくなかなか写真に納まってくれない。。サイズや見た目は、シマリスよりもエゾリスに近い印象。







学会を振り返って







3日間あっという間でしたが、毎晩(朝?)の振り返りを書いたおかげで、頭の中の引き出しに各セッションがちゃんと整理された形で収まっていく感覚がありました。自分の中の "laser medicine の地図" がアップデートされた ──そんな感触を持って学会を閉じることができました。







私がもともと専門にしてきた乳房画像診断においてもそうでしたが、英語圏での情報交換の場に身を置くことで、知識だけでなく「ものの見方・姿勢そのもののパラダイムシフト」が自分の中で起きるような経験は、何にも代えがたいものです。今回もそれが起きていたと思います。

学会から一晩明けて、帰路にたつ直前のホテル内。
出発は午前3時の予定なので、フライト前のこの時間に学会全体のまとめを残しておきたく、午前0時起床w。

私が滞在していた一角は、観光客向けの整備された一画と、地元の人たちが集まる City Market がちょうど隣接していて、私はその境目あたりの——おそらくもとはモーテルだったであろう——ホテルに泊まっていました。

土曜宵の余韻なのか、外ではまだ陽気な声が響いていました。。







帰国後は、メモを反芻しながら、自身の臨床にどう落とし込むかを丁寧に考えていきたいと思います。







改めて、藤本先生、そして今回の出張の機会にあたりご協力くださったみなさまに、こころより感謝申し上げます。













参考文献(主要トピック関連)







Inflammageing / 加齢と慢性炎症(Day 1)













PDRN(Polydeoxyribonucleotide)/Lactobacillus由来 PDRN(Day 1)













Skin of Color/高 Fitzpatrick phototype のレーザー安全性(Day 2)













LBO / 532 nm / 1064 nm Nd:YAG の血管病変への併用(Day 3・自身の演題関連)













1726 nm レーザー(AviClear)と尋常性ざ瘡治療(Day 3)













NMSC reduction / Non-ablative fractional laser と皮膚癌予防(Day 3)













GLP-1 era と skin laxity(Day 3)



















本記事は、ASLMS 2026(2026年5月7日〜9日/米国ジョージア州サバナ)参加時の聴講メモをもとに再構成したものです。記載内容は筆者個人の理解に基づくもので、各演者・スポンサーの公式見解を代表するものではありません。

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